星降りキャンプ場
王都から少し離れた森の中。
そこには、人間も魔物も利用できるキャンプ場があった。
看板には大きくこう書かれている。
『星降りキャンプ場』
その下には、小さな文字で、
『魔物への餌やり禁止』
と書かれていた。
管理人のダンは、朝からキャンプ場を見回っていた。
「今日は満員か。」
テントが十張。
冒険者の家族。
エルフの夫婦。
ドワーフのグループ。
そして、隅のほうに小さなテントが一つ。
「……あれは誰だ?」
テントの入口から、緑色の頭がひょこっと出てきた。
ゴブリンだった。
ダンは慌てて近づく。
「お客さん!」
ゴブリンが振り返る。
「はい?」
「ここ、人間用のキャンプ場ですよ。」
「知ってます。」
「魔物は入場禁止です。」
ゴブリンは困った顔をした。
「でも、常連です。」
「……え?」
その時。
森の奥から、
ぷるん。
小さなスライムが現れた。
さらに、
ドスン。
オークが歩いてくる。
そして、
バサッ。
木の上からハーピーが降りてきた。
ダンは頭を抱えた。
「お前ら……。」
ゴブリンが胸を張る。
「みんな常連です。」
「なんで魔物がキャンプ場に……。」
オークが答える。
「焚き火が楽しい。」
スライムが、
ぷるぷる。
ハーピーが笑う。
「星が綺麗だから。」
ダンはため息をついた。
「まあ……他のお客さんを襲わないならいいです。」
「襲いません。」
「テントを壊さない。」
「壊しません。」
「食べ物を盗まない。」
三匹が顔を見合わせた。
「……。」
ダンは眉をひそめる。
「そこ、なんで黙るんです?」
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夜。
キャンプ場のあちこちで焚き火が燃えていた。
冒険者たちは肉を焼いている。
「うまい!」
エルフはキノコを焼いている。
「香りがいいわね。」
ドワーフは酒を飲んでいる。
「最高じゃ!」
その少し離れた場所。
魔物たちは焚き火を囲んでいた。
ゴブリンが小声で言う。
「今日、人間の肉がある。」
オークが首を振る。
「食うなよ。」
「分かってる。」
スライムがぷるぷる震える。
「じゃあ、何食べる?」
ハーピーが指差す。
「あれ。」
その先には、冒険者のテント。
その前に置かれた大きな皿。
焼き芋だった。
ゴブリンの目が輝く。
「焼き芋……。」
オークも頷く。
「焼き芋……。」
スライムも、
ぷるん。
全員の視線が焼き芋に集中した。
そこへ管理人のダンが現れる。
「お前ら。」
全員が固まった。
「何してる?」
ゴブリンが答える。
「星を見てます。」
「焼き芋を見ながら?」
「星は焼き芋の向こうにあります。」
「屁理屈を言うな。」
ダンは腕を組んだ。
「魔物への餌やりは禁止だ。」
「自分で取るのは?」
「もっとダメだ。」
魔物たちは肩を落とした。
その時だった。
冒険者の少年がこちらへ歩いてきた。
手には焼き芋。
「これ、食べる?」
魔物たちの目が輝いた。
「ダメ!」
ダンが叫ぶ。
少年は驚く。
「え?」
「魔物への餌やりは禁止なんです。」
少年は焼き芋を見つめる。
そして、
「じゃあ……一緒に食べるのは?」
ダンは黙った。
魔物たちも黙った。
少年は焼き芋を割った。
「半分こ。」
ゴブリンが恐る恐る受け取る。
「……いいの?」
「うん。」
オークも受け取る。
スライムは焼き芋の横でぷるぷる震えている。
「お前は食べられるのか?」
ダンが聞く。
スライムは、
ぷるん。
焼き芋を丸ごと包み込んだ。
「食べた!」
少年が笑う。
魔物たちも笑う。
その夜。
人間と魔物は、少し離れた焚き火を囲んで一緒に星を眺めた。
しばらくして、少年が聞いた。
「ねえ。」
「なに?」
「魔物って怖くないの?」
ゴブリンは少し考えた。
「人間も怖いよ。」
「え?」
「でも、焼き芋を半分くれる人間は怖くない。」
少年は笑った。
その隣で、管理人のダンも小さく笑った。
「……まあ、そういう夜があってもいいか。」
翌朝。
ダンがキャンプ場を見回る。
テントは無事。
ゴミも落ちていない。
焚き火もきちんと消されている。
「珍しく完璧だな。」
すると、受付の机に一枚の紙が置かれていた。
『お世話になりました』
その下に、
ゴブリンの字。
『焼き芋、おいしかったです』
オークの字。
『また来ます』
そして最後に、
スライムの文字。
『ぷるん』
ダンは苦笑した。
「……予約だけは人間と同じように取れよ。」
その日から、星降りキャンプ場には新しい注意書きが増えた。
『魔物の入場は禁止していません』
『ただし、他のお客様の食料を勝手に食べないこと』
その下には、誰かが小さく書き足していた。
『焼き芋は半分こなら可』
森の奥では、
ぷるん。
今日もスライムが嬉しそうに跳ねていた。




