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王都不動産 第4話【事故物件】


王都の冒険者ギルド向かい。


『王都不動産 ギルド前支店 秘密厳守』




店長ガルドは、分厚い物件台帳をめくっていた。



「築百五十年、日当たり良好、駅……じゃなかった、転移門まで徒歩五分。」


受付のリナが聞く。


「店長、『事故物件』って本当にあるんですか?」


「あるよ。」


「幽霊が出るとか?」


「うん。」


「やっぱり人気ないです?」


「家賃は半額になるね。」


「半額!」


その時だった。


チリン。


「部屋を借りたい。」


入ってきたのは、駆け出しの若い冒険者だった。



「いらっしゃいませ。」


「できるだけ安い部屋をお願いします。」



ガルドは台帳を開く。



「ご予算は?」


「金貨三枚まで。」


「それだと普通の部屋は難しいですね。」


「事故物件でも構いません。」


リナが小さく息をのんだ。


「本当に?」


冒険者は笑う。


「魔王軍と戦ってるんですよ。幽霊くらい平気です。」

ガルドは静かにうなずいた。


「では、ご案内します。」


案内された家は、王都の外れに建つ石造りの一軒家だった。


庭付き。井戸付き。暖炉付き。


見た目は悪くない。


「本当にここが事故物件なんですか?」


「はい。」


「何が出るんです?」


「夜になると分かります。」


その夜。


時計が十二時を告げた瞬間。


ズゥゥゥン……!


部屋の温度が急激に下がり、床から漆黒の瘴気が吹き出した。


禍々しい紫色の雷光とともに、空中に恐ろしい姿が浮かび上がる。


ボロボロの黒衣。


血塗られた呪いの杖。


闇夜のように黒いオーラを放つ、伝説の『古代魔女』の怨霊だった。


「我は深淵より来たりし災厄……千年の恨み、今こそ晴らさん……!」


「出たぁぁぁ!」


冒険者は恐怖で腰を抜かし、剣を抜いた。


魔女は血走った目で冒険者を睨みつける。


そして、恐ろしい地響きのような声で言った。


「……という威嚇は禁止されているゆえ、安心せよ。」

「え?」


魔女はスッと直立し、深々と丁寧にお辞儀をした。


「新しい入居者だな。我は古代魔女・エルザだ。」


冒険者は拍子抜けした。


「えっと……呪い殺さないんですか?」


「規約違反になる。」


「規約?」


「管理会社からキツく言われておる。『入居者への取り憑き行為は一発退去』『深夜のポルターガイストは月二回まで』『怪奇現象は午後十時まで』だ。」


冒険者は言葉を失った。


「我は千年生きる魔女。ルールは守る。」


魔女は胸を張る。


その時。


天井からゴンッ! と大きな音が鳴った。


「何だ!」


「上の階の『首なし騎士』だ。」


「上にもいるの!?」


「あやつは夜更かしでな。鎧の音がうるさいゆえ、すでに管理会社へ苦情を入れてある。」


翌朝。


冒険者は王都不動産へ戻ってきた。


「店長。」


「住めそうですか?」


「霊障は全然問題ありません。」


「そうですか。」


「むしろめちゃくちゃ礼儀正しいです。」


ガルドは安心したようにうなずいた。


「良かった。」


冒険者は深い深いため息をついた。


「でも、一つだけ困ることがあります。」


「何でしょう?」


「あの魔女、毎朝家事をしてくれるんです。」


「いいじゃないですか。」


「血塗られた呪いの杖で、お風呂場のカビをピカピカに落とすんです。」


「便利ですね。」


「『我が闇の炎で焼き尽くしてくれる……!』とか叫びながら、朝食の目玉焼きを完璧な半熟にしてくれます。」


「美味しそうですね。」


「あと『生殺与奪の権は我にある! 剣は危ないから鞘にしまえ!』ってめちゃくちゃ怒られました。」


リナが吹き出す。


「お母さんみたいですね。」


冒険者は遠い目をした。


「実家を出た意味がありません。」


その時、店のベルが鳴った。


チリン。


漆黒の瘴気をまき散らしながら、古代魔女が店に入ってきた。


「不動産屋の主よ……少し相談がある。」


リナが震え上がる中、ガルドは慣れた様子で頭を下げる。


「いらっしゃいませ。上の階の騒音トラブルの件ですね。」


「うむ。」


魔女は禍々しいオーラを放ちながら、深刻そうな顔で言った。


「上の階の鎧の音がうるさくて、我が『世界を滅ぼす呪いの儀式』に集中できぬ。……私、成仏したほうがよろしいだろうか?」


ガルドは首を横に振った。


「いえ。まずは天井に防音の魔法陣を施工しましょう。成仏は最終手段ということで。」


古代魔女はホッとしたように、深々と頭を下げた。


その様子を見ていた冒険者が、小さくつぶやく。


「事故物件というより……」


ガルドが営業スマイルで答えた。


「お母さん付きの優良物件ですね。」


店の外では、看板猫が大きなあくびをした。


『古代魔女と共存可(家事代行付き)。家賃半額。』

その張り紙は、その日のうちに「契約済み」の札へと変わった。

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