透明水彩スライム【色水作り師】
朝日が差し込むアトリエには、色とりどりの小瓶が並んでいる。
私の仕事は『色水作り師』。
魔法使いの絵の具や妖精の染め布に使われる、不思議な色水を作る職人だ。
その色を生み出してくれるのは、この工房で暮らす小さな相棒――透明水彩スライムたち。
「おはよう。今日は朝摘みのネモフィラだよ」
花びらを差し出すと、一匹の透明なスライムが嬉しそうに「ぷるんっ」と跳ねた。
ぱくり。
飲み込まれた花びらは、水に絵の具を落としたようにゆっくりと溶け、透明だった身体を淡い空色へ染め上げていく。
隣では、野イチゴを食べた子が透き通るルビー色に。
菜の花を食べた子は、春の日差しのようなひまわり色になって、ぽよんぽよんと弾んでいる。
「みんな、今日もきれいだね」
私は空色のスライムをそっと両手で包み込む。
柔らかな水風船を扱うように、ほんの少しだけ力を込めると、
「ぷきゅっ」
可愛らしい声とともに、澄みきった空色の雫がぽたり、ぽたりと小瓶へ落ちていった。
仕事を終えたスライムは少しだけ小さくなるけれど、窓辺で水を飲んで日向ぼっこをしているうちに、夕方には元通り。
だから誰も嫌がらない。
むしろ「次はぼくだよ」と言わんばかりに、ぷるぷる揺れて順番を待っている。
午後になると、工房は彼らの遊び場へ変わる。
「ぷるにゃっ!」
「ぽよよーん!」
色づいたスライムたちは弾みながら重なり合い、くっついては離れ、笑い合うように転がっていく。
そのたびに、色が生まれた。
空色とルビー色が重なれば、夜明けを閉じ込めたような淡いすみれ色。
ルビー色とひまわり色が溶け合えば、夕焼けのようにあたたかな橙色。
そして何匹もの色が重なった瞬間――。
言葉では名前を付けられない、美しいグラデーションがふわりと揺らめいた。
陽の光を透かすその姿は、まるで生きているステンドグラス。
色は溶け合い、ほどけ、また新しい色へ生まれ変わる。
私は仕事の手を止め、何度でも見惚れてしまう。
「……やっぱり、君たちには敵わないな」
どんな名画家も、この色は描けない。
どんな魔法使いも、この輝きは作れない。
私は新しい小瓶を棚から取り出した。
「明日は星屑草と月見草を一緒に食べてみようか」
「ぷるるんっ!」
スライムたちは嬉しそうに跳ねる。
その身体には、まだ名前のない色が虹のように揺れていた。
私は小瓶のラベルを一枚取り出し、まだ何も書かずに机へ置く。
明日、この世界にまた一つ、新しい色が生まれるのだから。




