魔王軍の薬師
「はい、次の患者さんどうぞー」
魔王城地下、医務室。
勇者討伐の最前線――ではない。
ここは、魔王軍で働く魔物たち専用の労災認定診療所である。
人間の薬師である俺は、今日もカルテを片手にため息をついた。
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「失礼する……」
診察室に首を押し込んできたのは、レッドドラゴンのドラン。
「火を吹くたびに喉がむせるのだ。昨日など勇者に『焚き火か?』と笑われてしまった……」
喉を診た俺はうなずく。
「炎の吐きすぎです。一週間、火気厳禁。トローチを出します。」
「火を吐くなとは……ドラゴンに死ねと言うのか……」
「辛口の魔法使いを食べるのも禁止です。」
ドランは肩を落として帰っていった。
カルテには『喉の使いすぎ』と書いておく。
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「先生ェ!」
今度は広報部のカッパ、カパ太郎。
「求人ポスター描きすぎて肩が限界ッス! しかも最近、抜け毛が止まらないッス!」
「ストレスですね。」
「カッパがハゲたら、ただの緑のおっさんッス!」
肩へ塗る薬と育毛オイルを渡す。
「しばらく残業禁止。」
「その診断書、魔王様にも見せたいッス!」
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「ぷるる……」
スライムがゼリーのように揺れながら入ってきた。
「どうしました?」
「乾燥で……身体が……縮みました……」
俺は水を一杯かけた。
「はい、治療終了。」
「ぷるっ♪」
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ガコン、と箱が歩いてきた。
ミミックだった。
「口が開かないんです……」
「また宝箱のフタを閉めすぎましたね。」
油を差してやると、
「ガパァ!」
勢い余って俺を飲み込もうとした。
「診察中に患者を食べるのは禁止です。」
「失礼しました。」
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受付が顔を出した。
「先生。最後の患者さんです。」
重い足音。
診察室の扉がゆっくり開く。
魔王その人だった。
「……誰にも言うな。」
「もちろん守秘義務があります。」
魔王は椅子に腰を下ろし、小声で言った。
「最近、勇者が来ると思うと胃が痛くて眠れん。」
俺は黙って問診票を書き、診断書を差し出した。
診断名 ストレス性胃炎。
「処方は?」
「十分な睡眠。それと、一週間ほど世界征服を休んでください。」
魔王は真顔で診断書を見つめた。
「……それは労災になるのか?」
俺はカルテを閉じた。
「ええ。"職場環境"が原因ですから。」
翌日、魔王軍では勇者討伐作戦が延期になった。




