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魔界錬金術師【禁断の素材】


魔界には、一人の錬金術師がいる。 




名をアルク。




魔界錬金術師と呼ばれる彼は、薬も武器も、呪いさえも錬成できる天才だった。




ある日、魔王はアルクを玉座へ呼び出した。



「お前にしか頼めぬ仕事がある。」



魔王は黒い箱を差し出した。



中には、千年前の錬金術書が収められていた。




ページを開くと、そこにはこう書かれている。



«『禁断の素材を集めし者、世界を滅ぼす兵器を完成させる。』»



しかし、最も重要な素材の名前だけが、何者かによって削り取られていた。



「その素材を見つけ出せ。」



魔王は静かに命じた。



---



アルクは旅に出た。



火山で竜王の牙を手に入れた。



不死鳥の羽を求め、燃え続ける森を越えた。



深海では海竜の涙を結晶に変えた。



世界樹の実も、魔神の血も、古代の魔石も集めた。



どれも伝説級の素材だった。



だが、何度錬成しても兵器は完成しない。



「違う……。」




「本当の素材が、まだ足りない。」



---



数年後。


世界最古の遺跡で、アルクは一枚の石板を見つける。



削られた文字の周囲を何度も指でなぞる。



欠けた線。



わずかな刻み。



古代文字解読士でさえ読めなかった文字を、錬金術師でもある彼は理解した。



その一文字が、古代語の意味を変えていた。



アルクは息をのむ。


「そういうことだったのか……。」



そこに刻まれていた禁断の素材。



それは――


『人の欲望』


だった。



---


アルクは町へ戻る。



市場では商人が金貨を奪い合っていた。


貴族は権力を求めて争い


兵士は名誉を欲し


盗賊は財宝を狙い


国同士は領土を奪い合っていた


怒り


嫉妬


憎しみ


支配欲



そのすべてが、古代文字のいう「素材」だった。



アルクは静かにつぶやく 



「探す必要なんて……なかった。」



「世界中に、あふれていた。」


---




魔王城へ戻ると、魔王が尋ねた。


「素材は見つかったか。」



アルクはうなずく。


「はい。」



「ならば兵器は完成するな。」


アルクは黙って錬金術書を取り出した。



そして暖炉の炎へ放り込む。



古びたページは、ゆっくりと燃え始めた。




魔王は怒ることなく、その炎を見つめていた。


「なぜ燃やした。」



アルクは答える。



「この兵器は、作る必要がありません。」



「もう材料は完成しているからです。」



魔王は目を細める。



「どういう意味だ。」


アルクは静かに言った。



「人の欲望がある限り、世界は自分で滅びます。」


---



しばらく沈黙が流れた。



やがて魔王は、小さく笑った。


「……だから私は、お前に読ませた。」


アルクは顔を上げる。



魔王は玉座から立ち上がり、窓の外の人間界を見つめた。



「兵器など必要ない。」



「人は、自らの欲望だけで滅びへ向かう。」



その言葉を聞いたアルクは、初めて理解した。



禁断の素材とは、兵器を完成させるための材料ではない。

世界がすでに危険な状態にあることを知らせる、警告だったのだ。

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