コボルトの八百屋
王都の市場で一番活気がある場所。
それは間違いなく、犬の獣人・コボルトたちが営む八百屋だ。
「いらっしゃい!今日の『光るカボチャ』は甘いよ!」
店先では、エプロン姿のコボルト店員が、ちぎれんばかりに尻尾をブンブンと振り回しながら元気いっぱいに客引きをしている。
あまりに激しく尻尾を振るものだから、時々体がふわりと宙に浮きそうになっているのが何とも愛らしい。
その満面の笑顔と人懐っこさに惹かれ、店の前にはいつも黒山の人だかりができていた。
彼らが売っているのは、異世界ならではの不思議な野菜ばかりだ。
スライムキャベツ: 触るとブルブル震える、みずみずしさ抜群の葉物野菜。
逃亡大根: 勝手に転がって逃げようとするため、コボルトたちがフリスビーを追うように嬉々として捕まえている。
そんなドタバタと賑やかな接客の最中、店の奥に置かれた特製の土箱から異変が起きた。
スポーンッ!
「ギャー!」
鼓膜を突き破るような、甲高い悲鳴。
伝説の植物、マンドラゴラが勝手に土から飛び出したのだ。
引っこ抜いた者の命を奪うとも言われる恐ろしい鳴き声に、市場の客たちが思わず身構えて耳を塞ぐ。
しかし、コボルト店員は全く慌てる様子がない。
ピンと立った耳を少しだけペタンと倒すと、素早くマンドラゴラをふんわりと抱きとめた。
「あー、よしよし、ねんねしようね〜」
コボルトは、暴れるマンドラゴラを赤ちゃんのように腕の中で優しく揺らし始めた。
鼻歌を歌いながら、根っこのあたりをトントンと一定のリズムで叩く。
すると、あんなに凶暴だったマンドラゴラの悲鳴が徐々に小さくなり……。
「……きゅぅ」
なんと、すっかり安心したように安らかに眠りについてしまった。
「はい、ふかふかの土のお布団に帰ろうね〜。おやすみ」
そっと土箱の奥深くに埋め直してポンポンと土を固めたコボルトは、何事もなかったかのように再び客の方へ向き直った。
「お騒がせしました! さあさあ、今ならお詫びに、炒めると勝手に火を噴く『火吹きネギ』も一本オマケしちゃうよ! わんっ!」
尻尾をプロペラのように回しながらニコニコと笑うコボルトの姿に、客たちは毒気を抜かれたように財布の紐を緩めてしまう。
騒がしいファンタジー野菜たちと、人懐っこすぎる店員たちのドタバタ劇。
今日もコボルトの八百屋さんは、市場で一番の賑わいを見せている。




