天空導師
「空の色は誰が決めていると思う?」
少女は病室の窓から空を見上げながら尋ねた。
老人は少し考えてから笑う。
「神様かな。」
少女は首を振った。
「違うよ。」
「天空導師。」
老人は苦笑した。
「そんな仕事、本当にあるのかい?」
「あるよ。」
少女は真剣な顔で言う。
「だって先生が教えてくれたもん。」
老人はそれ以上、何も言わなかった。
少女はもう長く生きられない。
医師も家族も、そのことを知っていた。
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王都の外れ。
空を司る職人たちが暮らす塔。
そこへ一通の依頼が届く。
«「人生で一番きれいな夕焼けを見せてあげてください。」»
若い天空導師・ソラは、その手紙を何度も読み返した。
「一番きれいな夕焼け……か。」
空を赤く染めることは難しくない。
だが、人の心に残る夕焼けを作るのは簡単ではない。
師匠は静かに言った。
「空は色じゃない。」
「誰かの願いを映すものだ。」
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その日の夕方。
ソラは塔の最上階へ登る。
風の精霊に祈り、
雲を少しだけ西へ流す。
夕日が雲の縁を黄金色に染める。
さらに空の高いところへ、薄い紫を重ねる。
赤。
橙。
桃色。
金色。
最後に、ほんの少しだけ藍色を混ぜた。
世界中の空が、ゆっくりと色を変えていく。
市場で働く人が手を止めた。
旅人が足を止めた。
子どもたちは遊ぶのをやめた。
誰もが空を見上げる。
「今日は……きれいだ。」
そんな声が、町中に広がった。
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病室の少女も窓の外を見つめていた。
夕焼けが瞳いっぱいに映る。
「すごい……。」
その一言だけだった。
やがて母親の手を握り、小さく笑う。
「明日も見たいな。」
母親は笑顔でうなずいた。
「うん。」
そう答えながら、声は震えていた。
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翌朝。
少女は静かな寝息のような笑顔を残し、旅立った。
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数日後。
ソラは病院を訪れる。
病室はもう空いていた。
窓辺には、一枚の絵が飾られている。
昨日の夕焼けだった。
裏には、小さな字で書かれていた。
«「ありがとう。
空って、こんなにきれいだったんだね。」»
ソラはその絵を見つめ、深く頭を下げた。
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それから毎年、その町では同じ日になると、不思議な夕焼けが現れるようになった。
人々はその景色を見るたび、理由も分からず、大切な人を思い出した。
「あの日の夕焼けは特別だった。」
誰かがそうつぶやく。
空は何も語らない。
けれど天空導師たちは今日も塔の上で、誰かの願いを空へ描いている。
人は景色を忘れる。
それでも、その景色と一緒に抱いた気持ちは、心のどこかに残り続ける。
だから今日も空は、誰かのために染まるのだ。




