死霊術師ネクロマンサー
「死者を蘇らせる最悪の魔法使いが現れた!」
王都を揺るがすその凶報に、勇者、魔法使い、僧侶、戦士からなる精鋭パーティが組まれた。
目指すは、おどろおどろしい瘴気が漂うと言われる暗黒の洞窟。
「覚悟しろ、邪悪なるネクロマンサーめ!」
勇者が勢いよく最深部の扉を蹴り開けると、そこには黒いローブを着た、人の良さそうな青年が立っていた。
「あ、ようこそ。今日はちょうど、墓地のお掃除をしているところなんですよ」
「……え?」
拍子抜けする勇者たちをよそに、ネクロマンサーの青年が呪文を唱える。
ズゴゴゴゴ……!
地響きと共に、無数のガイコツ兵がゾロゾロと這い出してきた。
「出たなアンデッド! みんな、構え——」
「では皆さん、まずは落ち葉を集めてくださーい」
カサカサカサカサカサッ!!
勇者が剣を抜くよりも早く、ホウキを持ったスケルトンたちがものすごい勢いで落ち葉を掃き集め始めた。一切の無駄がない、一糸乱れぬ完璧な掃き掃除である。
「……襲ってこないのか?」
剣を構えたまま完全に固まる勇者に、青年はにこやかに答えた。
「え? 彼ら、生前働き者だったらしくて『もう一度働きたい』って言うんですよ」
青年が言う通り、彼の使役するアンデッド軍団は信じられないほど優秀だった。
腐りかけのゾンビたちは「疲れを知らない」という特性を存分に活かし、荒れ果てた畑を昼夜問わず耕し続ける。
フワフワと宙に浮くゴーストたちは、脚立なしで高い庭木の枝をスパスパと綺麗に剪定していく。
極めつけは、高度な知能を持つ高位アンデッドのリッチだ。彼は生前、優秀な商人だったらしく、丸眼鏡をかけて王国中の複雑な帳簿を恐ろしいスピードで処理し始めた。
王国一番の公共事業は、いつの間にかネクロマンサーのアンデッド軍団が完全に支えるようになっていた。
ある日、すっかり綺麗で豊かになった王都を見渡しながら、王様は深く頷いた。
「そなた……正直、魔王軍よりよっぽど役に立つな」
「ありがとうございます。
彼らも生きがい(?)を感じているようです」
「うむ。では本日をもって、そなたを王国土木大臣に任命する!」
ここに、王国史上初となる『公務員ネクロマンサー』が誕生した瞬間であった。
一方、その噂を聞きつけた魔王城では、魔王が玉座で頭を抱えていた。
「わ、わしの恐怖政治が……王国の手厚い公共サービスに負けたじゃと……?」
翌日の朝。
勇者は王都のカフェで、優雅にモーニングコーヒーを飲みながら王国新聞を開いた。
一面には、最も大きな文字でこう書かれている。
『死霊術師ネクロマンサーの職場、今年の「働きたい職場ランキング」第一位に輝く!』
(※福利厚生充実・完全週休二日制・死後も安心のサポート体制)
「…………」
勇者はそっと新聞を閉じ、深く、深くため息をついた。
「……俺たちの討伐、必要だったのかな」




