子ドラゴンの歯みがき屋さん
竜の谷の片隅にある、私の小さなサロン。
今日の予約表も「子ドラゴンの歯みがき」でいっぱいだ。
「ほらほら、グラント。炎を吐く練習をサボって、またチョコばかり食べていたでしょう」
私の膝の上で、赤い鱗を持つ生後三ヶ月の子竜がバツの悪そうな顔をしてうつむいている。
その口の周りには、証拠品である甘いチョコレートがべったりとこびりついていた。
「虫歯になったら、立派な炎も吐けなくなっちゃうし、かっこいいドラゴンの牙が生えなくなっちゃうぞ。
さあ、はい、あーん」
「……アーン」
促されて、子竜は大人しく大きな口を開けた。ギザギザとした小さな乳歯の間には、案の定、黒いチョコの塊が詰まっている。
私は特注の「ドラゴン専用・特大歯ブラシ(柄は頑丈なオーク材、ブラシは魔猪の硬い毛)」を構え、甘い香りのする特製ミントペーストをたっぷりと乗せた。
「いくよー。シャカシャカ、ゴシゴシ……」
「きゅるる……」
丁寧にブラッシングを始めると、子竜はうっとりと目を細めて喉を鳴らした。
最初は嫌がっていたくせに、実のところ彼はこの歯みがきの時間が大好きなのだ。
ゴシゴシという心地よい刺激に合わせて、背中の小さな羽がピクピクと動き、太いしっぽがご機嫌に床をパタパタ、パタパタと叩く。
空の覇者となるべきドラゴンの幼生が、今や完全に撫でられるのを待つ子犬のような状態である。
「奥歯も磨くから、もうちょっと大きく開けてね」
「アァー」
ゴシゴシ、シャカシャカ。
あまりの気持ちよさにすっかり脱力した子竜は、無防備にお腹を見せて完全にくつろぎモードだ。
すると突然、リラックスしすぎたのか、ぽっかり開いた鼻の穴から小さな煙が漏れた。
ふすっ。
ほんのりチョコミントの香りがする煙が、私の顔にフワリとかかる。
「こらこら、煙を吐くのは我慢して。前髪が焦げちゃうからね」
「きゅっ(ごめん)」
申し訳なさそうに短く鳴く姿も、また愛らしい。
仕上げに魔法の冷水でうがいをさせると、子竜の牙は真珠のようにピカピカに輝いた。
「はい、おしまい! よくできました」
膝から飛び降りた子竜は、自慢げにキラリと光る歯を見せつけ、嬉しそうに短い羽を羽ばたかせて去っていった。
……どうせ明日もまた、チョコだらけの顔でここへやって来るのだろう。
私は苦笑しながら、真っ黒になった特大歯ブラシを洗い始めた。




