宝石磨き屋さん
王都の裏路地に、知る人ぞ知る小さなサロンがある。
木彫りの看板には『宝石磨き』の文字
カランコロンと、店のベルが控えめに鳴った。
「いらっしゃいませ。……おや?」
店主の私がカウンターから覗き込むと、そこには泥だらけの小さな毛玉が立っていた。
リスとウサギを足して二で割ったような、ふわふわのフォルムと長い耳。額に美しい宝石を持つ幻獣、「カーバンクル」だ。
しかし、今日のカーバンクルはいつもと様子が違う。
「きゅ、きゅぅぅ……」
短い前足で必死に自分の額を隠し、モジモジと恥ずかしそうに身をよじっているのだ。
前足の隙間からチラリと見えるのは、本来なら真っ赤に輝くはずの立派なルビー。
しかし今は、泥遊びを大満喫したせいで、すっかり泥まみれのくすんだ石ころのようになっていた。
「ははぁ、さては森の奥の泥沼で、派手にはしゃぎすぎたね?」
私が優しく微笑むと、カーバンクルは図星を突かれたのか、ビクッと肩を揺らしてさらに顔を隠してしまった。
なんとも愛らしいお客さまだ。
「大丈夫、すぐにピカピカにしてあげるからね。さあ、こちらへ」
専用のふかふかなクッションに案内すると、カーバンクルは恐る恐る短い手足を伸ばしてよじ登った。
まずは温かいお湯を含ませた柔らかいスポンジで、額の泥を優しく拭き取っていく。
「きゅっ……」
少し緊張しているのか、ふわふわの尻尾がピンと張っている。
泥が落ちたところで、いよいよ本番だ。私は引き出しから、幻獣の宝石専用の高級クロスを取り出した。
キュッ、キュッ、キュッ。
リズミカルに、かつ繊細にルビーの表面を磨き上げる。
森の花のオイルを少しだけ馴染ませ、円を描くように優しく撫でる。
「きゅぅ〜〜〜……」
先ほどの恥じらいと緊張はどこへやら。
カーバンクルはトロンと目を細め、だらしなく口を半開きにして、完全にうっとりモードに突入していた。
キュッ、キュッ、キュッ。
「きゅぅ……んきゅ……」
磨かれる心地よさに耐えきれなくなったのか、カーバンクルはコロンと仰向けに転がり、短い手足をパタパタと宙で泳がせ始めた。クッションに完全に溶けてしまったような、無防備すぎる姿である。
「はい、おしまい。ピカピカになったよ」
手鏡を差し出すと、カーバンクルはハッとして飛び起きた。
鏡の中には、極上の輝きを取り戻し、キラキラと眩しいほどの赤い光を放つルビーの姿が映っている。
「きゅいっ! きゅきゅーっ!!」
カーバンクルは両手をバンザイしてぴょんぴょん飛び跳ね、自慢の宝石を私にグイッと見せつけるようにドヤ顔を決めた。さっきまでのモジモジは完全に忘れているらしい。
コロン。
大満足のカーバンクルは、お代としてカウンターにピカピカに磨かれた大きなドングリを一つ置き、フリフリとお尻を揺らしながら森へと帰っていった。
「……さて、次はどんなお客さまが来るかな」
私はドングリをそっとポケットにしまい、温かい余韻の残る店内で、のんびりと次のお客様を待つのであった。




