王様
荘厳な空気が漂う王城の謁見の間
赤い絨毯の先、玉座に座る白髭の国王は、家臣たちの報告を静かに聞いていた。
「以上の通り、北の国境付近にて魔王軍の不穏な動きが確認されました。早急な対応が必要かと存じます」
歴戦の将軍が報告を終え、隣では勇者が王の言葉を待つ。
国の命運を左右する重大な局面――。
しかし国王の頭の中は、魔王軍どころではなかった。
(よし……今だ!)
「ふむ、魔王軍の動きが活発化しているとな……」
顎を撫でるふりをして、玉座の裏に隠した『王室御用達・春の限定苺マカロン』を素早く摘まみ、そのまま口へ放り込む。
(モグッ……ふほぉぉ! この苺ガナッシュ、たまらん!)
緩みそうになる頬を気合いで抑え込み、何食わぬ顔で続ける。
「……して、勇者よ。そなたの意見も聞こうか」
(完璧だ。我ながら見事なステルス・イーティング。この場でマカロンを食べているなど誰も気付くまい)
だが、謁見の間は別の意味で緊張に包まれていた。
国王の白い髭にはピンク色のマカロンの欠片が大量に付着し、右の口角には苺クリームがべったり。
(((めちゃくちゃ付いてる……!!)))
勇者も将軍も近衛兵も、心の声が完全に一致した。
(どうする!? 「陛下、お口にクリームが」なんて言えるか!?)
将軍の額から汗が流れる。
そんな空気にも気付かず、国王は満足げだった。
(皆、ワシの威厳に圧倒されておるな)
「案ずるな。我が軍の守りは鉄壁よ」
そう言って今度は『特製バタークッキー』を取り出す。
「皆の力を合わせれば、必ずや魔王を退けられよう!」
サクッ。
ボロボロッ。
クッキーの粉が黄金の鎧に降り注ぎ、謁見の間にバターの香りが広がった。
「ぷっ……」
近衛兵が慌てて咳払いで誤魔化す。
勇者は下唇を噛み締め、必死に笑いを堪えた。
「さあ、行くが良い! この国の未来は、そなたらの双肩にかかっておる!」
国王が勢いよく立ち上がり、勇者を指差す。
その鼻には、いつの間にかチョコチップが張り付いていた。
「「「は、ははぁーーっ!!」」」
勇者と将軍は、これ以上その顔を見ないよう深く平伏する。
(ふふふ……今日もワシの威厳で、皆に勇気を与えてしまったようだな)
完璧に隠し通せたと思い込んだまま、国王は威風堂々と玉座へ座り直すのだった。




