【迷子妖精の案内所】
王都の真ん中にある『迷子妖精の案内所』
朝の扉を開けた瞬間から、職員のエルドの耳に「助けてー!」「おうちが分からないのー!」と甲高い声が一斉に飛び込んできた。
カウンターの上では、人間のおやつを盗み食いして動けなくなった妖精や、カフェの特製コーヒーカップで溺れかけていた妖精など、手のひらサイズの迷子たちが大集合している。
早く森へ帰さないと街が大変なことになるため、エルドは初手から頭を抱えていた。
「はいはい、順番に並びなさい! ……ってコラ、そこのお前、私の万年筆を杖にするな!」
エルドが声を張り上げると、ソファにふんぞりかえっていた一匹の光の妖精が、ふんっと鼻を鳴らした。
体長わずか十センチほど、鮮やかな緑のドレスをまとった光の妖精・ピコだ。彼女は両手を腰に当て、手のひらの上で思い切り上から目線を向けてくる。
「おい人間、乱暴に扱うな! 私はな、森の奥の由緒正しき……っと、お腹が空いて力が出ない。とりあえず極上の蜜酒を持ってこい!」
「助けてもらう立場のセリフじゃないだろ! 立場をわきまえろ!」
ツッコミを入れつつも、エルドがスポイトで特製の甘露水を与えると、ピコは「ふはは、生き返る!」とすっかりご機嫌になった。
「世話になったな人間。お礼に、お前の願いを一つ叶えてやろう!」
「願い? じゃあ、今日の仕事が定時に終わるようにしてくれ」
「まかせろ!」
ピコがキラキラと光を放ちながら謎の呪文を唱えると、案内所の床からゴゴゴッと地響きが起きた。
次の瞬間、床を突き破って 巨大な人喰い花がボコンと生えてきて、ギャーッ!と威嚇の声を上げた。
「わあぁぁっ!? なんで仕事が増えてるんだよ!」
「ふっ、驚いたか? 私の強力な召喚魔法の才能に感謝するがいい!」
「余計なことすんなぁぁ!!」
エルドはすぐ足元にあった掃除用のモップを構え、暴れるマンイーターと必死で格闘する羽目になった。
小一時間の死闘の末、どうにか窓から花を追い出したときには、エルドはすっかりボロボロの雑巾のようになっていた。
「ふぅ、いい運動だった。……おい人間、続きの蜜酒はまだか?」
「よくその顔で催促できるな……!」
白目をむくエルドをよそに、ピコは満足そうに羽をパタパタと動かす。
しかし、文句を言いながらも、エルドはきちんと仕事を進める男だ。
彼は専用の小さなガラス瓶を取り出すと、ピコをはじめとする迷子たちを優しく中に収めていった。
「ほら、おうちに帰りな!」
「む、引っ張るな!……まあ、悪くなかったぞ人間!」
ピコが小瓶の中からポンッと投げたお礼は、きらきらと光る『幸運の木の実』だった。
「お、今度こそまともなお礼か?」
エルドが受け取った瞬間、ぽふっと音がして、彼の頭からなぜか立派なシイタケが一本生えてきた。
……もちろん、食べると少しの間だけ運が良くなるが、頭からキノコが生えるという絶妙にありがた迷惑な代物である。
「頭のキノコ、美味しそうだな」とピコたちが大笑いしながら森の空へと帰っていく。
頭にキノコを生やしたまま遠い目をするエルドを置いて、今日も王都の案内所は、笑いとドタバタに包まれながら一日が始まっていくのだった。




