ひえひえスライムの氷菓店
王都の夏は容赦がない。
石畳はじりじりと焼け、人々は皆、暑さに溶けそうな顔で歩いている。
そんな中央広場にだけ、小さな涼しい楽園があった。
水色のテント。
丸文字の看板。
『ひえひえスライムの氷菓店』
「あついぃぃ……」
猫耳の獣人の少年・ルカが、今にも倒れそうな足取りで屋台へたどり着いた。
耳もしっぽも、しょんぼり垂れている。
「いらっしゃい!」
エプロン姿の少女・ミアが笑顔で迎えた。
「今日も暑いねぇ。」
「もう限界……。」
「大丈夫!」
木桶の中をぽんっと叩く。
「シュガー、お願い!」
「ぷるるん!」
巨大な万年雪スライムが元気よく揺れた。
ふわり。
心地よい冷気が屋台いっぱいに広がる。
「はぁぁ……。」
ルカの耳が少しだけ元気を取り戻した。
「今日は何味?」
「太陽オレンジ!」
「はーい!」
ミアは木桶から、ぷるんとした小さなスライムを三匹すくい上げる。
手のひらサイズの透明な子たちが、器の中でぷるぷる震えていた。
「はい、ちょっと失礼しますねー。」
細い口の瓶を差し込む。
ちゅっ。
ちゅっ。
ちゅっ。
オレンジシロップが注がれるたび、透明だったスライムは夕焼けみたいな色へ変わっていく。
「わぁ……。」
ルカは目を輝かせた。
「できあがり!」
宝石のように輝く三匹のオレンジ・スライムゼリー。
「いただきます!」
ぱくっ。
ぷるん。
ひやぁぁぁっ!
薄い膜が弾ける。
極上に冷えたオレンジシロップが口いっぱいへ広がり、火照った身体を一気に冷ましていく。
「おいしいぃぃ!」
猫耳がぴんっと立った。
「生き返ったぁ!」
「ふふっ。」
ミアが笑う。
シュガーも嬉しそうに、
「ぷるるっ♪」
と身体を揺らした。
◇
次から次へと子どもたちがやって来る。
「いちご!」
「ぶどう!」
「レモン!」
「ぼく全部!」
「最後の子は欲張りすぎ!」
ミアは笑いながら大忙し。
その横でシュガーは、
ぷるっ。
ぷるっ。
ぷるっ。
と、どんどん小さなスライムを分裂させていく。
一時間後。
木桶の中を見ると――
「……あれ?」
さっきまで大きかったシュガーが、半分くらいの大きさになっていた。
「ぷる……。」
なんだか少し元気がない。
「あーっ!」
ミアは慌てて額を押さえた。
「シュガー! 分裂しすぎだよ!」
子どもたちも木桶をのぞき込む。
「シュガー、大丈夫?」
「ちっちゃくなってる!」
シュガーは照れくさそうに、
「ぷる……。」
と縮こまった。
「もう今日はおしまい!」
ミアは木桶へ特製の魔力水をたっぷり注ぐ。
「いっぱい飲んで、ゆっくり休もうね。」
シュガーは、ごくごくと魔力水を吸い込み――
ぷくぅぅぅ……
ぷくぷくぷく……
みるみる元の大きさまで戻っていく。
「ぷるるーーーんっ!!」
勢いよく膨らんだ拍子に、冷たい風が広場いっぱいへ吹き抜けた。
「きゃーっ、涼しい!」
「もう一回!」
「シュガー、がんばれー!」
「だーめ。」
ミアは笑いながら木桶をぽんぽん叩いた。
「今日は閉店。また明日ね。」
シュガーは満足そうにぷるんと揺れ、夕暮れの風に合わせるように、小さく鳴いた。
「ぷる。」




