瞑想スライムのリラクゼーションサロン
都会の喧騒から遠く離れた山奥で、私は小さなリラクゼーションサロンを営んでいる
今日の予約客は、全身に無数の古傷を刻んだベテラン戦士だった。
「おい、本当にこんなスライムで疲れが取れるのか?」
腕を組み、いかにも疑わしそうな目で、水色のスライムを見下ろしている。
「もちろんです。彼らは『瞑想スライム』戦うことも、獲物を追うこともなく、ただ静かに心を空っぽにして生きる、とても珍しい種族なんですよ」
私は戦士をふかふかの座布団へ案内し、その両脇へ二匹の瞑想スライムを置いた
スライムたちは「ぽよん」と丸くなると、それきり動かない。
ただ、ゆっくりと身体を膨らませ、ゆっくりと縮ませる。
まるで呼吸そのものだった。
「目を閉じて、彼らの呼吸に合わせてみてください。焦りも、怒りも、後悔も……今だけは手放しましょう」
戦士は渋々目を閉じる。
最初は浅かった呼吸が、やがて深く、穏やかなものへ変わっていく。
部屋には「ぽよぉ……ぽよぉ……」という小さな音だけが響く。
何も考えない。
何も求めない。
ただ、そこに在る。
その静けさは、不思議と人の心まで静かにしてくれるのだ。
◇
一時間後。
戦士は目を開けると、まるで別人のように穏やかな表情になっていた。
「……驚いたな。剣ばかり握って生きてきたが、心を休ませるというのも悪くない」
そう言って瞑想スライムを優しく撫でる。
スライムは気持ちよさそうに、ぷるんと震えた。
「来週も頼む」
「ありがとうございます。またお待ちしております」
戦士は軽く手を振り、晴れやかな足取りで帰っていった。
私は深く一礼し、予約帳へ彼の名前を書き込む。
そのときだった。
「先生。」
受付係のゴブリンが、小声で私を呼んだ。
「……はい?」
「実は前から気になってたんですが。」
ゴブリンは、部屋で丸くなったままの瞑想スライムを指差した。
「あの子たち、瞑想じゃなくて昼寝してるだけですよ。」
私はしばらく黙ってスライムたちを見つめた。
二匹とも、小さく寝息を立てながら、幸せそうにぷるぷる揺れていた。
……まあ、お客様が癒やされるなら、それでいいか。




