ポーション品質検査員
王都の外れにある小さな工房では、今日も一本一本のポーションが光にかざされていた。
色は正しいか。
香りに違和感はないか。
薬効に揺らぎはないか。
誰も気づかないほど小さな違いを見つけるのが、私の仕事だった。
品質検査員。
英雄でもなければ、名のある薬師でもない。
ただ、最後に瓶へ小さな検査印を押すだけの人間だ。
「細かい仕事ですね」
新人はよくそう言う。
私は笑って答える。
「一本くらい、大丈夫だと思った日が、一番危ないんだよ。」
だから今日も、何百本ものポーションを確かめる。
夕暮れには目が霞み、瓶の色が少しずつ同じに見えてくる。
それでも、手は止めない。
誰かが飲む、その一本のために。
ある冬の日。
工房に一人の青年が訪ねてきた。
古びた剣を腰に差した、どこにでもいそうな冒険者だった。
「これを、お返ししたくて」
そう言って差し出したのは、空になったポーションの瓶だった。
私は首をかしげる。
「瓶を返しに?」
青年は照れくさそうに笑った。
「魔物に囲まれて、もう駄目だと思ったとき、この一本だけが効いたんです。」
瓶の底には、小さな検査印が残っていた。
私が押した印だった。
「薬師さんには会えませんでした。でも、この印だけは消えなかったので。」
青年は深く頭を下げる。
「ありがとうございました。」
そう言い残して帰っていった。
私はしばらく、その空き瓶を手のひらで転がしていた。
中身はもう一滴も残っていない。
それでも、その瓶はどんな勲章より重たく感じられた。
翌朝も、私はいつもと同じ机に向かう。
一本目のポーションを光にかざし、小さく検査印を押す。
この印を気に留める人は、きっとほとんどいない。
それでもいい。
誰かが生きて帰る理由に、ほんの少しだけなれるのなら




