栄光なき鍛冶職人
その鍛冶屋には、客が来なかった
朝になれば炉に火を入れ、夕暮れまで鉄を打つ。
カン、カン、と槌の音だけが谷に響き、誰も訪れない店先には、売れ残った剣が何十本も壁に掛けられていた
町の者は口をそろえて言った
「あいつは腕だけはいい」
そして、少し笑って続ける
「だが、剣は売れない」
名工とは、良い剣を打つ者ではない
貴族に気に入られ、王家に召し抱えられ、名のある騎士に使われる者を、人は名工と呼ぶ
老人は、そのどれにもなれなかった。
若い頃、一振りの剣を王都へ持ち込んだことがある。
見た者は皆、その刃の美しさに息をのんだ
だが、誰も買わなかった。
「飾りにはいい」
「戦場には向かない」
「名もない鍛冶師の剣など、縁起が悪い」
そう言われて終わった
それから四十年
老人は一度も王都へ行かなかった
名声も弟子も妻も子もなく、ただ鉄だけを打ち続けた。
季節だけが流れた
冬の終わりだった
老人は久しぶりに炉へ向かった
体は思うように動かず、槌は以前より重い
それでも、その日だけは休まなかった
誰に頼まれたわけでもない
売る相手もいない
それでも打った
朝日が昇る前から、夜空に星が浮かぶまで
最後の一撃を落としたとき、不思議な静けさが工房を包んだ
老人は剣を持ち上げる
老人はしばらく眺め、それから苦く笑った
「……失敗作だ」
何が失敗だったのか、自分でも説明できなかった
重さも悪くない
刃もよく通る
折れもしない
それなのに、胸の奥で何かが違うと告げていた
「こんな剣では、誰の人生も変えられん」
その夜、老人は工房の椅子に腰掛けたまま息を引き取った
翌朝、町の人々が店を片づけに来た
「かわいそうにな」
「腕は良かったんだが」
「結局、一度も報われなかったな」
売れ残った剣は荷車へ積まれ、一本一本、鉄くず同然の値で引き取られていく
最後に残ったのが、老人の『失敗作』だった
若い古道具商が手に取る
「これも持っていくか」
「そんな鈍い剣、薪割りにもならんぞ」
「まあ、飾りにはなるだろ」
荷車の隅へ無造作に放り込まれた剣は、乾いた音を立てた
誰も知らなかった
その日から何百年にもわたり、この一本の剣が、王の玉座にも、盗賊の腰にも、戦場にも、古道具屋の棚にも、競売場の壇上にも置かれ、そして世界を灰にする魔王の剣になる事も




