異世界骨董商【刻の欠片】
王都の外れに、一軒の骨董店がある
店の名は「刻の欠片」
勇者の剣、精霊のランプ、竜の鱗で作られた杯――珍しい品々が並ぶにもかかわらず、不思議なことに、どの品にも値札が付いていなかった
「店主、この剣はいくらだ?」
筋骨隆々の冒険者が尋ねる
骨董商は剣を一瞥し、静かに答えた
「金貨三十枚です」
冒険者は迷わず支払い、満足そうに店を出ていく
その直後、今度は王国騎士が同じ剣を手に取った
「これは、おいくらでしょう?」
骨董商は微笑む
「あなたには売れません」
騎士は眉をひそめた
「なぜだ?」
「その剣は、人を守る者より、人を倒す者を選ぶ剣だからです」
騎士は何も言えず、剣を棚へ戻した
その日も、店にはさまざまな客が訪れた
ある商人には、古びた壺を銀貨一枚で
ある魔法使いには、傷だらけの杖を金貨百枚で
同じ品でも、値段は人によって違っていた
「どうして値段が変わるんですか?」
見習いの弟子が尋ねると、骨董商は棚を拭きながら言った。
「品物には持ち主を選ぶものがある。私は、その橋渡しをしているんだよ」
弟子には、まだよく分からなかった。
数日後、一人の小さな女の子が店へ入ってきた
服はつぎはぎだらけ
手には銅貨が二枚しか握られていない
店の奥で、一つの鈴が小さく揺れた
木でできた、小さな鈴
どこにでもありそうなのに、不思議と目が離せない
「この鈴、いくら?」
骨董商は少女の顔を見つめ
それから鈴をそっと手に取った
「この鈴には値段はありません」
少女は悲しそうにうつむく
「やっぱり買えないよね……」
骨董商は首を横に振った
「いいえ。あなたなら払えます」
「え?」
「笑顔を、一つくだ。」
少女はきょとんとした。
そして少し照れながら、にっこり笑った
その瞬間だった
今まで一度も鳴らなかった木の鈴が
――チリン!
澄んだ音を店いっぱいに響かせた
見習いの弟子は驚いて目を丸くする
「鳴った……!」
骨董商は優しくうなずいた
「あの鈴は、本当に大切にしてくれる人の前でしか鳴らない」
少女は大事そうに鈴を胸へ抱きしめると、「ありがとう!」と元気よく頭を下げ、帰っていった
店の扉が閉まる
弟子は、まだ鈴の音の余韻に浸っていた
「結局、あの鈴の価値って、いくらだったんですか?」
骨董商は窓の外を見た
夕日に照らされた少女が、鈴を鳴らしながら楽しそうに歩いている
その姿を見届けてから、静かに答えた
「骨董品の値段は、私が決める」
少し間を置いて
「けど、価値を決めるのは持ち主なんだよ。」
夕暮れの店内で、棚に並ぶ古い品々が、どこか嬉しそうに輝いて見えた




