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廃墟巡礼師

青年は、誰も近づかない廃墟ばかりを旅していた



人は彼を「廃墟巡礼師」と呼ぶ

朽ちた城。

崩れた教会。

草木に飲まれた村。 



青年は地図に印を付けながら歩く

本当の目的は、十年前に姿を消した姉を探すことだった。


姉もまた、廃墟を巡っていた

最後に残された手帳には、こう書かれている

『廃墟には、まだ働いている人がいる』


青年は、その意味を知りたかった

その日の目的地は、「灰灯村」

地図から消えた村だった



夕暮れの村には、家々が崩れ、井戸は枯れ、広場には誰もいない


それなのに、どこからか箒で掃く音が聞こえる。

サッ……

サッ……


音をたどると、一人の老人が落ち葉を掃いていた

制服には、小さな名札

『村守 オルド』


老人は青年を見ると、軽く会釈した。

「旅人さんか」

「ここには誰も住んでいませんよね?」

「ええ。」

老人は穏やかに笑った

「だから掃除をしております。」

青年は首をかしげる

「誰もいないのに?」

「誰もいないから、ですよ。」



老人は壊れた家の前を丁寧に掃く

「村というものは、人が住まなくなっても、放っておくと寂しがるんです」

奇妙な話だった

だが老人は本気だった

やがて日が沈む

老人は箒を止め、小さくつぶやいた

「今日は少し早いな」

「何がです?」

「夜が。」

その瞬間だった


崩れた家々の窓に、一つ、また一つと灯りがともる。

誰もいないはずの家から、笑い声が聞こえる


鍋の煮える音

犬の鳴き声

子どもが駆け回る足音

昼間は廃墟だった村が、夕暮れとともに生き返っていく


青年は息をのんだ

広場には、人影が集まり始めていた

だが、その誰一人として顔がなかった


老人は静かに帽子を脱ぐ

「仕事の時間です」


そう言うと、広場の真ん中へ立ち、大きな声で告げた。

「本日も異常なし

皆さん、どうぞ安らかな一夜を」


人影たちは一斉に老人へ頭を下げた


青年は恐ろしくなり、村を飛び出した


村の外れまで走って振り返る

灰灯村は、闇の中で静かに灯をともしていた

まるで今も、誰かが暮らしているように


翌朝

青年は昨夜の出来事を手帳に書き留めようとして、あることに気づく

ページの隅に、自分が書いた覚えのない文字が増えていた。

『村守オルド 勤務三百二十七年目』

『今日も、住民は全員そろっていました』


青年はゆっくりと手帳を閉じた


姉の言葉は、本当だった

廃墟には今も人がいる

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