冥府魔導駅【帰らず列車の車掌】
深夜零時
霧の中を、一両だけの古い列車が走る
行き先表示はない
乗客も、いつも一人だけ
車掌の仕事は切符を拝見し、終点まで案内すること
ただし、一つだけ規則がある
「生きている者には、帰りの切符を渡してはならない」
その夜、一人の青年が飛び乗ってきた
「助かった……終電に間に合った」
車掌は黙って切符を受け取る
切符には、行き先が書かれていなかった
青年は笑って尋ねる
「この列車、どこまで行くんです?」
「終点までです」
「終点って?」
車掌は帽子を少し下げた
「皆さま、それは降りてからお知りになります」
列車は静かに走り続ける
窓の外には霧しかない
駅にも停まらない
やがて青年は不安そうに立ち上がった
「すみません。降ります」
車掌は穏やかに微笑んだ
「申し訳ございません。当列車は途中下車できません」
その言葉と同時に、車内放送が流れる
『まもなく終点、忘却駅。お降りのお客様は、お忘れ物のないようお願いいたします』
青年は青ざめた
「忘却駅……?」
車掌は小さくうなずく
「ええ。あなたのお名前も、ご家族も、人生も。終点ではすべて置いて降りていただきます」
青年が非常ドアを叩く音だけが、車内に響いた
翌朝
新聞には、小さな記事が載った
『昨夜、終電に乗ったとされる男性、現在も行方不明』
その記事を読んだ車掌は、新しい制服に袖を通し、今日も霧のホームで列車を待つ
次の生者を、終点まで送り届けるために




