異世界銀行王
異世界一の銀行を築いた男がいた
誰もが彼を『銀行王』と呼んだ
王族は国を建てるために金を借り、商人は店を開くために金を借り、冒険者は装備を整えるために金を借りる
彼の金貨は、世界中を巡っていた
ある日、若い商人が尋ねた
「銀行王様。あなたは世界一のお金持ちですよね?」
銀行王は首を横に振った
「違う 」
「でも、この金庫には山のような金貨があります」
銀行王は一枚の金貨を取り出した
「この金貨は誰のものだと思う?」
「もちろん銀行王様の……」
「違う」
銀行王は笑った
「これは鍛冶屋が預けた金だ」
次の金貨を取り出す
「これはパン屋」
次は農夫
次は宿屋
次は王様
金庫の金貨には、一枚一枚、持ち主がいた
「銀行は金を集める場所ではない」
銀行王は静かに続けた
「人の信用を預かる場所だ」
若い商人は首をかしげる
「信用ですか?」
「ああ」
銀行王は窓の外を見た
今日も人々は働いている
畑を耕す農夫
剣を打つ鍛冶屋
荷物を運ぶ配達人
朝早くからパンを焼く職人
「彼らが真面目に働くから、私は安心して金を貸せる」
「つまり、お金を動かしているのは銀行ではない」
「働く人々だ」
若い商人は初めて銀行という仕事を理解した
銀行王は金貨を金庫へ戻した
「金貨には価値がない」
「えっ?」
「価値があるのは、その金貨を信じる人々だ」
金貨は、ただの金属
信用があるから、お金になる
働く人がいるから、信用が生まれる
だから銀行は、金ではなく人を信じる仕事だ。




