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琥珀の砂時計宿「戦士の探していたもの」

山あいの街道に、一軒だけ灯りの消えない宿があった



旅人はその宿を、「琥珀の砂時計宿」と呼ぶ

理由を知る者はいない



ただ、玄関には古びた砂時計がひとつ置かれ、琥珀色の砂が絶え間なく静かに落ち続けていた



雨の降る夕暮れ、一人の戦士が宿の扉を開けた

年は三十ほど。



使い込まれた鎧には無数の傷があり、背中の大剣は何度も研ぎ直されている。


「一泊頼む」

主人は穏やかにうなずき、部屋の鍵を差し出した



食堂には、戦士のほかに老人が一人いるだけだった


食事を終えた戦士は、主人に尋ねた

「この町に、俺より強い奴はいるか?」

主人は少し考えてから答えた。


「私は知りません。」

戦士は小さく舌打ちをした


「また外れか。」

翌朝、戦士は宿を出ていった


しかし三日後、また戻ってきた

「今度は北の町へ行ったが、やはりいなかった」


そう言って酒を飲み干す

そして同じ質問をする

「この辺りに、俺より強い奴はいるか?」



主人は静かに首を横に振った

それから一年

戦士は何度も宿を訪れた


春も

夏も

秋も

雪の降る夜も



来るたびに、同じ言葉を口にした

「俺より強い奴はいるか?」


ある冬の夜

暖炉の火を見つめていた老人が、戦士へ声をかけた


「一つ聞いてもいいか」

「何だ」


「もし世界で一番強くなったら、その後はどうする?」

戦士は笑った

「その時考える」


老人はうなずく

「では、誰にも負けなくなったら?」


戦士は答えられなかった

暖炉の薪が、ぱちりと音を立てる

老人は湯飲みを置いた


「君は強さを探しているようで、本当は負ける日を恐れているんだね」


その言葉だけが、静かな宿に残った…



翌朝


主人は朝食を並べていると、戦士が珍しく笑っていた

「主人 」

「はい」

「この町で、一番うまいパン屋はどこだ?」


主人は少し驚いたが、町外れの小さな店を教えた


戦士は礼を言い、剣を背負って歩き出す


もう、「俺より強い奴はいるか」とは聞かなかった


主人は玄関の砂時計をそっと裏返した


琥珀色の砂がまた静かに流れ始めた


強さを探していた旅人は、

ようやく

今日という一日を探し始めたのだった

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