魔法の種屋
王都の外れに、小さな種屋があった
店主は白い髭を蓄えた老人で、花や野菜だけでなく、虹豆や月灯草、歌う木など、不思議な植物の種を扱っている
「この種、本当に育つの?」
旅人が尋ねると、老人は笑って小袋を差し出した
「育つとも。ただし、水だけでは足りん」
「じゃあ、肥料?」
「いいや」
老人はそれ以上、何も言わなかった
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その店では、同じ種を買ったはずなのに、結果が違うことで有名だった
ある男は文句を言いながら毎日水をやった
「どうせ芽なんか出ない」
一週間後、鉢の土は静かなままだった
別の少女は、小さな鉢を窓辺に置き、毎朝笑顔で話しかけた
「今日もいい天気だね」
「ゆっくりでいいからね」
十日後、小さな芽が顔を出した
町では、
「種に心があるんだ」
と噂された
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ある日、一人の若い庭師が店を訪れた
「本当に種が人の気持ちを選ぶんですか?」
老人は首を横に振る
「さあな」
「でも、町のみんなはそう言っています」
老人は棚から同じ袋を二つ取り出した
「これは同じ畑で採れた、同じ日の種じゃ」
若い庭師は二つとも買って帰った
一つは
「どうせ無理だ」
と思いながら植えた
水をやる日も忘れ、土が乾いても気づかない
もう一つは、
「きっと咲く」
と思いながら植えた
毎朝土を見て、乾けば水をやり、虫がつけば取り除いた
季節が巡る頃
片方の鉢は土のまま
もう片方には、小さな青い花が揺れていた
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庭師は花を抱えて店へ戻った
「やっぱり魔法の種だったんですね」
老人は花を見つめ、静かに笑う
「そう思うか?」
「違うんですか?」
老人は空になった種袋を指でつまみ、こう言った
「わしは種しか売っとらん」
「育てたのは、おまえさんじゃ」
その日も店先には、新しい客が並んでいた
老人は変わらず、小さな紙袋を差し出す
「水だけでは足りん」
その続きを聞けた者は誰もいない




