冥府魔導駅
深い霧の中にだけ現れる、小さな駅がある
駅名標には、かすれた文字で『冥府魔導駅』と書かれていた
この駅に列車が停まるのは、百年に一度
それ以外の日は、線路すら存在しない
駅長の仕事は単純だった
霧を絶やさぬこと
ホームを掃き清めること
そして、たった一人の乗客を迎えること
百年の間、誰も来ない駅で、駅長は毎日同じように時計を磨き、制服を整え、時刻表を確認する
時刻表には、たった一本だけ
「午前零時零分 到着」
それだけが記されていた
そして百年目の夜
遠くから汽笛が響く
黒い列車が霧を裂いてホームへ滑り込んだ
降りてきたのは、若い旅人だった
「助かった…… 道に迷ってしまって」
旅人は安心したように笑う
駅長は静かに帽子を取った
「ようこそ、お待ちしておりました 」
「次の町へ行く列車ですか?」
「ええ。終点まで、お送りいたします 」
旅人は礼を言い、列車へ乗り込む
ドアが閉まり、列車は再び霧の中へ消えていった
駅長は時刻表の横にある古びた帳面を開く
百年前の欄には、一つの名前
二百年前にも、一つ
三百年前にも、一つ
どのページにも、一人だけ
今日の日付にも、旅人の名前を書き込む
帳面の最後には、小さくこう書かれていた
「百年に一度、生者が一人だけ迷い込む」
駅長は静かに帳面を閉じる
「これで、あと百年」
そう呟くと、ホームから線路が消え、駅舎も時計も霧に溶けていった
翌朝、その山道で旅人を探す人々は、深い霧の中に真新しい線路を見つけたという
その線路は、途中でふつりと途切れていた




