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異世界 美食家

「この世で一番うまい料理を食わせてくれ」


異世界を渡り歩く美食家ラグスの口癖だった


炎竜の心臓を炙ったステーキ

千年樹の蜜で煮込んだシチュー

人魚が月夜にだけ採る真珠貝のスープ


王侯貴族も神々も絶賛する料理を、彼は食べ尽くした。


だが、ラグスは首を振る


「違うな」


料理人たちは悔し涙を流し、次なる究極の一皿を生み出そうと鍋を振る


いつしか彼は「異世界美食家」と呼ばれるようになった


ある日、旅の果てで一冊の古い魔導書を見つける


そこにはこう記されていた



『究極の味は、異界にあり』


ラグスは迷わず転移魔法を発動した



眩しい光の先に広がっていたのは、魔法も魔物も存在しない世界


人間界だった



豪華な料理店を巡った


高級フレンチ

寿司

中華料理


どれも見事だった


だが、胸は震えない


日が暮れ、公園のベンチで肩を落としていると、小さな女の子が声をかけてきた。


「おじさん、おなかすいてるの?」



返事もできないでいると、少女はにこっと笑い、布に包まれたものを差し出した


「お母さんが作ってくれたの。一つあげる」


三角形の白い食べ物だった


海苔が巻かれ、中には塩鮭が入っている


「これは?」


「おにぎり!」


ラグスは一口かじった


米の甘み


鮭の旨み


ほんの少しの塩気


それだけだった


なのに、不思議と胸が熱くなった


旅立つ前、母が握ってくれた携帯食


もう何百年も昔に忘れていた記憶が、涙とともによみがえる


「……そうか」


ラグスは静かに笑った


「私が探していた味は、珍しい食材でも、神の料理でもなかった」


少女は首をかしげる


「おいしかった?」


「ああ。この世界一だ」


豪華だからではない


希少だからでもない


誰かを思って握られた、たった一つのおにぎり


それこそが、どんな異世界の至高の料理にも勝る、一番のごちそうだった

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