スライム温泉管理人
「今日から君には、この温泉を任せる」
異世界へ転移した翌日
そう言われた僕は、ようやく楽そうな仕事に就けたと胸をなで下ろした
温泉管理人。
掃除をして、お湯の温度を見て、のんびり番台に座る仕事だろう
……そう思っていた
「こちらです」
支配人に案内された大浴場には、巨大な青いスライムが、ぷるぷると揺れていた
「……え?」
思わず声が漏れる
「こちらが温泉管理スライムです」
「えっと……ボイラーは?」
「ぼいらー?」
支配人は首をかしげる
しまった。この世界にはない言葉だった。
「い、いえ、なんでもありません」
すると、スライムが勢いよく浴槽へ飛び込んだ
ぽちゃん
次の瞬間、少しぬるかったお湯から湯気がふわりと立ち上る
「現在、四十二度です」
「えっ、そんなピッタリ!?」
「この子は体温で湯加減を調整します」
文明って何だろう
僕は異世界の常識に、早くも敗北していた
しかし、この仕事には大きな問題があった
翌日
「今日は少し機嫌が悪いですね」
支配人がそう言った直後だった
スライムの体が、みるみる黒っぽく染まっていく
ぼこぼこぼこ……
温泉が煮え始めた
「現在、六十三度です」
「高っ!」
湯船から冒険者たちが飛び出した
「熱い熱い熱い!」
「鎧まで熱くなったぞ!」
浴場は大混乱である
「早く機嫌を直してください」
「僕が!?」
慌ててスライムをなでる
「よしよし……落ち着こうな?」
ぷる……
少しだけ色が戻る
温度は四十五度
「あと少し!」
僕は支配人から渡された『スライム専用ぷるぷるゼリー』を差し出した
スライムは嬉しそうに飲み込む
ぷるん♪
「現在、四十一度です」
「戻ったぁ……」
思わず床へ座り込んだ
数週間後
僕はすっかり仕事に慣れていた
朝はブラッシング
昼はおやつ
夕方はお昼寝
夜は子守歌
旅人が不思議そうに聞いてきた
「それ、本当に温泉管理人の仕事?」
僕は苦笑する
「半分くらい飼育員ですね」
その言葉が聞こえたのか、スライムが照れたように跳ねた
ぽちゃん。
「現在、三十九度です」
「今日はぬるいな」
支配人が真顔でうなずく
「照れております」
……この世界の温泉は、お湯ではなく、スライムのご機嫌でできているらしい
今日も湯けむりの向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえてきた




