悪夢収集家「悪夢の値段」
「悪夢を買い取ります」
路地裏の古びた店には、そんな看板が掛かっていた
誰も信じない
だが、本当に毎晩悪夢に苦しむ人だけは、その店を訪れる
店の主人は「悪夢収集家」と呼ばれていた。
机の上に透明な瓶を置き、依頼人の額へ静かに手を添える
すると黒い霧のようなものがゆっくりと流れ出し、瓶の中へ吸い込まれていく
瓶の蓋を閉めると、主人は言った
「悪夢は高値で買い取ります」
「なぜですか?」
「価値が高い悪夢ほど、一人では抱えきれませんから」
「これで今夜から、ぐっすり眠れます」
依頼人は涙を浮かべながら帰っていく
その顔は、何年ぶりかに安らかな表情だった
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ある夜、一人の老人が店を訪れた
「毎晩、同じ夢を見るんです」
主人は静かにうなずく
「どんな夢ですか」
老人は震える声で話し始めた
「暗い部屋で、小さな女の子が泣いているんです」
主人の表情が初めて曇った
「……珍しい悪夢ですね」
主人は瓶を取り出し、悪夢を吸い取る。
黒い霧は今まで見たこともないほど濃く、瓶の中で生き物のように渦を巻いていた
主人は瓶を見つめ、小さく息をのむ
「これは高く買い取ります」
老人は驚くほどの大金を受け取り、何度も礼を言って帰っていった
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その夜から老人は、一度も悪夢を見なくなった
眠ることが怖くなくなった
家族も喜んだ
誰もが幸せになったと思った
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しかし翌朝
町中で奇妙な出来事が起きる
病院でも
学校でも
会社でも
見知らぬ人たちが、同じ話をしていた
「知らない女の子が泣いていた」
「同じ夢を見たんです」
噂は一日で町中へ広がった
主人は店の奥で、空になった瓶を棚へ戻す
そして、新しい瓶を取り出しながら静かにつぶやいた
「悪夢は消えない、誰かが見るのをやめるだけだ」
店の外では、今日も新しい客が看板を見上げていた
『悪夢を買い取ります』
その文字の下には、小さくこう書かれている
※買い取った悪夢の処分方法については、お答えできません




