赤ちゃんゴーレム
無もなき旅人は、古い石畳の道で、大きなゴーレムと出会った
ゴーレムは道端にしゃがみ込み、小さな花をじっと眺めている
「何をしてるんですか?」
旅人が尋ねると、ゴーレムはゆっくり振り向いた
「花が咲くのを待っています」
「それ、もう咲いてますよ」
「では、散るまで待っています」
旅人は思わず笑った
「気が長いんですね」
「はい」
少し歩きながら旅人は聞いた
「お名前は?」
「まだありません」
「え?」
「赤ちゃんなので」
旅人はゴーレムを見上げた
身長は三メートル近くあり、全身が岩でできている
どう見ても赤ちゃんには見えない
「失礼ですが……おいくつですか?」
「昨日、四千二百歳になりました」
旅人は足を止めた
「……四千二百歳?」
「はい」
「それで赤ちゃん?」
ゴーレムはうなずく
「ゴーレムは一万歳くらいまでは赤ちゃんです」
「長すぎません?」
「人間は急ぎすぎです」
旅人は苦笑した
「じゃあ、大人になるまであと六千年くらい?」
「はい」
「気が遠くなるなぁ」
「私は平気です」
少し考えてから、ゴーレムは続けた
「昨日、初めて一人で花を見に来ました」
「それは……おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ゴーレムは本当にうれしそうだった
旅人は空を見上げる
人間なら、一生を終えてしまうほどの時間
それでもこの世界には、昨日ようやく一人歩きを許された 四千二百歳の赤ちゃん がいる
異世界は今日も、旅人の常識を静かに壊していくのだった。




