不思議なダンジョン
世界中の者たちは、私を恐れている
「ダンジョンは人を喰う」
「命知らずが入る場所」
「魔物の巣」
誰もがそう言う
……少しだけ、違う
私は、生きている。
山よりも古く
森よりも長く
この地に根を張り、幾千もの命を見送ってきた
今日も一人の少年が入口に立った
革鎧は擦り切れ、剣は何度も研ぎ直された跡がある
初めて来る冒険者だ
私は壁の奥で、小さく息をついた
「この子には、スライムで十分だ」
奥にいたオーガたちには眠っていてもらい、代わりに生まれたばかりのスライムを一匹だけ送り出す
ぷるぷると震えながら飛び出したスライムは、少年の剣で真っ二つになった
少年は肩で息をしながらも、小さく笑った
「……勝てた」
その笑顔を見て、私は少しだけ安心した
それから何年も、少年は通い続けた
弱い日は弱い魔物を
強くなった日は、少しだけ強い相手を
時には行き止まりを作り、時には近道を開ける
宝箱には金貨だけではなく、水や薬草を忍ばせたこともある
少年は気づかない
それでいい
ある日、少年は仲間を連れて来た
笑い合いながら歩く姿は、もう一人前の冒険者だった
私は最深部への道を静かに開いた
仲間たちは激しい戦いの末、最後の魔物を倒した
歓声が響く
誰も命を落とさなかった
私は、それだけで十分だった
帰り際、少年――いや、もう立派な青年になった彼が、ふと入口で立ち止まる
誰に言うでもなく、ぽつりとつぶやいた
「不思議なダンジョンだったな」
「怖かったけど……どこか優しかった気がする」
私は返事をすることはできない
風が入口を吹き抜け、壁の苔がわずかに揺れただけだった
世界中の者たちは今も言う
「ダンジョンは人を殺す場所だ」と
違う
私は誰にも死んでほしくない
試練は、命を奪うためではない
生き抜く力を育てるためにある
だから今日も、新しいスライムが一匹、生まれる
今日も新しい冒険者が、私の前に立つ
私は静かに道を整える
――どうか、生きて帰っておいで
それが、誰にも知られることのない、ダンジョンのたった一つの願いなのだから




