異世界オークション「漆黒の魔石」
オークション司会者
「それでは、本日の最後の一品です」
静まり返った会場に、黒い布で覆われた小箱が運び込まれた
私は布を外す
手のひらほどの、漆黒の魔石
しかし、その鑑定書にはたった一行しか書かれていなかった
『価値――不明』
ざわめきが広がる
「開始価格は金貨百枚」
「千枚!」
最前列の商人が叫ぶ
「二千枚!」
王国一の魔導士が杖を掲げる
「一万枚だ」
豪商が笑う
金額は瞬く間に跳ね上がり、誰もが魔石の価値を信じて疑わなかった
やがて、金貨十万枚
それ以上の声は途絶えた
私は競売用の木槌を持ち上げる
会場中が息をのむ
だが、木槌は振り下ろされなかった
「申し訳ありません」
私が静かに頭を下げる
「この魔石はお金では落札できません」
「何だと!!?」
怒号が飛び交う
私は魔石を両手で持ち上げ、静かに告げた
「この魔石が求める代価は、お金ではありません」
その瞬間
黒い魔石が淡く光り始めた
光は客席をゆっくりと見渡し
高価な宝石を身に着けた貴族たちを通り過ぎ
勇者を通り過ぎ
豪商を通り過ぎる。
そして会場の隅で床を磨いていた、一人の老いた清掃員の前で止まった
老人は驚いたように首を振る
「私は買えません……」
私は木槌を一度だけ鳴らした。
「落札者、決定」
会場は騒然となる
「金も払わずに落札だと!?」
私は首を横に振った
「いいえ」
「この方は、すでに代価を支払っています」
誰も意味が分からなかった
私は最後に、鑑定書の裏面を開いて読み上げる
『この魔石は、人生で最も大切なものを失った者だけを、新たな主人として選ぶ』




