沈没
未明の港を、鐘の音が震わせた。
「アミア号が沈んだ!」
その報がギルドに届いたのは、太陽がまだ水平線の下にあった時刻だった。クナー港第五埠頭に静かに係留されていた船が、夜のうちに音もなく沈んだという。まるで、海に呑まれるように。
その名を聞いた瞬間、エミリー・フラーは思わず顔を上げた。
──クリフトンが帰還の足に使った、あの船だ。
すぐさま現地に赴いたギルド関係者や衛兵隊、スィニ商会の水夫らの報告は、信じがたい内容だった。
「潜って確認したが……船底に、穴が30以上も開けられていた。あれは……自然沈没じゃない。誰かが、意図的に沈めたんだ」
係留中の船に、静かに忍び寄り、底に複数の穴を開けて沈めるなど、よほど準備された計画的な犯行だ。乗員や積荷はすでに下ろされており、死者はいなかった。だが、その異常さは港の者たちの間でも恐怖を呼んだ。
ギルドに戻ったエミリーは、執務机に手をかけながら、ひとり静かに息を吐いた。
──何が起きているの?
「至高の白」と呼ばれるネックレス。エインズワース侯爵の依頼。莫大な報酬。そして、サファイア級冒険者クリフトンの凱旋。
そして、突然の沈没。
偶然にしては、出来すぎている。
「誰かが何かを……隠そうとしてる?」
エミリーの胸に、得体の知れないざわめきが広がっていく。まだ何も確証はない。ただ、不穏の気配だけが、海風とともに漂っていた。
それは、冒険者ギルドに渦巻く陰の兆しか。それとも、侯爵家を取り巻く何者かの策略なのか。
エミリーの瞳は静かに、港の方角を見据えていた。




