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新人教育

冒険者ギルド・クナー支部の朝は、潮風とともに始まる。


この日、職員の間ではひときわ話題になっている新人の姿があった。軽やかな制服に身を包んだ少女──名をティア・グレイス。クナーでも有力な交易組織のひとつ、ウルバン商会の幹部の娘だ。


「またコネか」「どうせすぐ辞めるさ」そんな囁きが通りすがりの職員の口から洩れていたが、当のティア本人はまるで気にする様子もなく、にこにことした笑顔で挨拶を返していた。


「おはようございますっ! 今日からこちらでお世話になります、ティアです!」


快活な声が響く中、副長がエミリーを呼び出した。


「エミリー、彼女の教育係を頼む。任せて安心できるのは君だけだ」


エミリーは軽く頷き、ティアの隣に立った。どこか人懐こく、しかし芯の通った瞳。その第一印象は「明るい」だけでは収まらなかった。


「では、まず今日の業務から順番に教えていくわ。ついてきて」


「はい、よろしくお願いします!」


ティアの指導が始まってすぐ、エミリーはその理解力の高さに気付かされることになる。帳簿のつけ方、依頼書の分類、危険等級ごとの査定基準──どれを教えても、ティアはわずかな説明でのみこみ、正確に実行してみせた。


「このリスト……あ、あの船は定員を誤魔化してますね。積載申告と護衛依頼の内容がずれてます」


「……その通り。よく気付いたわね」


「父が商会でやってること、だいたい耳に入るんですよ。船の帳簿って、誤魔化すときの癖があるんです」


茶目っ気を見せながらも、ティアの言葉には観察と実地経験がにじんでいた。


数日後、エミリーは副長の執務室で報告書を書きながら、こう付け加えていた。


「ティア・グレイスは確かにウルバン商会幹部の娘ではありますが、その実力は明らかに個人の努力と知性によるものです。縁故による採用と見なすのは誤りです」


締めの文を記したペン先が止まったとき、エミリーの胸中には一つの思いが浮かんでいた。


──かつての自分も、そう見られていた。だからこそ、彼女の本質を見抜いて評価したい。


どこかで誰かが蒔いた種は、きっと土の中で芽を出そうとしている。ティアという新しい芽もまた、クナーの地で育っていくのだろう。

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