勇者とその仲間たち
今回、四人で受けるクエストは【巨大蟻のフィナーレ】といって、その名の通り巨大な蟻を倒すというもの。
参加人数は四人で、私達は五人グループだから確実にひとり余って、誰かは留守番していないといけないらしいんだけど、
「ケン、お前は役立たずだから残ってろ」
「あ……うん。わかったよ」
話し合いの余地も無く、ダミアンの独断で参加者が決定した。
私、神作、ダミアンとドン。この四人で挑むことになったクエストに向かうため、私達は馬車に乗って草原地帯へと移動した。
御者をやってくれたケンだけを馬車に残して、さっそく目的のモンスターを探すため散策に入る。
「あぁ……そうだ。これをお前に渡すのを忘れていた」
途中、ダミアンが振り返り、神作に白を貴重とした持ち手の部分意外は交差するようなデザインの弓を手渡した。
「言っておくが、前線で戦うのはこの俺だ。お前は援護に回れ。くれぐれも俺より目立つなよ」
「……承知いたしました」
「君は俺のそばを離れないでくれよ、姫」
私には甘い態度と声で肩を抱いてきた相手から逃げるように距離を置いて、そそくさと神作の後ろへと隠れた。
舌打ちをして睨まれても、神作は表情ひとつ変えずダミアン達が再び歩き出すのを待っていた。
「……私、あの人苦手」
「……いいじゃないですか、イケメンで。目の保養になりませんか」
「神作の方が美人だし、心の栄養になるから」
「恐縮です」
本音を言ったのにお世辞だと思われたのか、さらりと受け流されてしまった。神作が照れたりするところとか、この先もそうそう見られないんだろうなと考えたらちょっと落ち込む。
その後も草原の中を歩み進んで行ったけど、巨大な蟻には出くわさなくて、三人とも小首を傾げた辺りでふと神作が大きな穴を見つけた。
土にぽっかりと開いたその穴の中を覗き込めば、終わりが見えないほどの暗闇が広がっている。
「おそらく、蟻の巣でしょう」
「これが?」
「はい。体に合わせたサイズと考えれば、何も不思議なことではありません」
「ってことは……この近くにいる?」
「その可能性が高いでしょうね」
「よく気が付いたな。まぁ、俺はもっと前から気付いていたが」
謎に張り合ってきたダミアンには苦笑いを返して、ここが巣ならそのうち帰ってくるだろうとしばらく待った。
そのうち、草の一部がガサガサと揺れて、警戒して弓を構えた神作の動きにつられて全員がそちらを向く。
「きました。……グランフルーミ。通称、巨大蟻です」
「うわぁ……見た目きも」
現れたグランフルーミは体長2メートルはある、まんま蟻の姿をしたモンスターで、現世で見る蟻と明らかに違うのはその大きさと頭についた長い角のような突起だ。
意外にも動きが俊敏で、私達を見つけてすぐ突進してきたグランフルーミに対して動けたのは神作ひとりだけだった。
彼女は弓の弦を慣れた手つきで力強く引いて、シュンと風を切る音を響かせる矢を放った。
矢は体の一部に当たり、悶え苦しんだグランフルーミが足を止めたところでダミアンが切りかかった。
武器を持たないドンは、拳に装着した棘のある手袋を使用して、殴るというシンプルな方法で攻撃していく。
役立たずな私は今回も何もできず、ぽつんと突っ立っていることしかできなかった。
「はぁ……私また何もできなかった」
「李瑠様はそれで良いんですよ」
「やだよ。ちょっとは役に立ちたいもん」
無事にグランフルーミを退治してウォーリアル帰宅する道中、項垂れる私を励ますためか神作が頭を撫でてくれた。
「どうしても戦闘に加わりたいのなら、使役しているあのドラゴンを呼び出してみてはいかがでしょう」
「あの子は母親だから。あんまり呼び出したら可哀想でしょ?」
「え!?ドラゴンの使役ができるの!」
私達の会話に入ってきたのはケンで、聞けば彼もまたテイマーらしい。
馬車を運転しながら興味津々な様子のケンは、ギルドに戻った後もあれやこれやと質問してきた。彼は動物が好きで、役職を与えられた時も喜んだそう。
「でも、ドラゴンの使役なんて聞いたことがないよ」
「そうなの?」
「うん!テイマーには熟練度に応じて、使役できるモンスターが決まるんだ。君の熟練度はどのくらいなの?」
「熟練度…」
そんなのあったかな?と試しにステータスを開いて確認すると、【役職・テイマー】の文字の隣には“99+”と書かれていた。
ケンも知らない表示だそうで、しばらく神作と三人で首をひねって不審がる。
数字の多さから、おそらくは人よりも高いんだろうことは分かった。
「すごいね、君!テイマーの才能があるんだ」
「さすが、人の上に立つ能力に長けているということですね。よっ、生まれながらの独裁者」
「……神作。それ褒めてる?」
「圧倒的支配者の方が良かったですか?あるいは傲岸不遜のお嬢様でも…」
「うん、褒めてない。絶対貶してるでしょ。さすがの私も怒るよ?」
何が楽しいのか、神作は珍しくケラケラと笑っていた。仮にも主に怒られそうだというのに。彼女は意外と、人をからかうのが好きなのかもしれない。そういうとこもかわいい。
「けっ……テイマーなんて、自分の力で戦えない軟弱者の能力だろ?何がそんなにすごいんだか」
会話が盛り上がる中、吐き捨てるようにドンが言うと、気の弱そうなケンは分かりやすく黙ってしまった。
ダミアンも興味がないようで、退屈そうに腕を組んで座っている。それもあってか空気を読んで運転に集中したケンの様子を見て、私達も気まずさを感じで口を閉じた。
彼等は仲間にしている割にケンの事をあまり好ましく思っていないようだ。言われずとも雰囲気から嫌でも察する。
ギルドに着いてからも、馬車の片付けやら報酬の受け取りやらで忙しく動き回るケンとは違い、ダミアンとドンは悠々と椅子に腰を落ち着け、酒を交わし始めた。
神作に任せきりの私も人のことは言えないけど、なんとなく見ていられない状況に口を開く。
「……手伝わなくていいの?」
「いいんだよ、あいつは。俺達の奴隷なんだ」
「性奴隷でもあるしな!」
「おい、ドン。余計なことを言うな」
そこで、知りたくはなかった事実を聞いてしまった。
ダミアンもドンも男色の気があるとは思えない。それなのに男のケンにまで手を出すということは、よほど女に困っているのが透けて見えた。
同性愛なんかに寛容なこの国だからこその選択なのか、はたまた女性不足の深刻さを現す事象なのか、どちらにしても普段蔑ろにされているケンの気持ちを考えると胸が痛む。
「それより、姫。今回の戦いはどうだったかな?」
「どうって…」
「俺、かっこよかっただろ?惚れ直してくれた?」
惚れ直すも何も、惚れてすらないんだけど。
そう言いかけたところで、神作とケンが受付から戻ってきた。
「ダミアン様、報酬はいかがなさいますか?」
「あぁ……全額、俺が貰うよ」
「は?」
報酬が詰まっているだろう革袋を、当然のように我が物で神作の手から奪い取ったダミアンの行動に、思わず不満を含ませた声が出る。
それでも彼は悪びれもせず、肩を浮かして言い放った。
「姫には悪いが、今回は俺達だけが活躍しただろ?働いていない者に払う金は無いんだ」
「私はそうだけど……神作はちゃんと戦ってたじゃない」
「矢でチクチクしただけじゃないか。あんなの、攻撃にも入らないさ」
「はぁ?あんたさっきからなにふざけたこと言って…」
「李瑠様。……私は構いません。報酬はダミアン様がお受け取りください」
信じられないことに平然と神作まで譲りだして、いよいよ怒りもはち切れそうな時、私達の険悪な空気にオロオロと困り果てるケンの姿が映った。
これ以上この場で騒ぎ立てるのは彼の心労的にも可哀想だと判断した私は、しぶしぶダミアンの提案に乗って報酬は諦める事にした。
納得いかないことだらけで、まだ一日も経っていないというのにもうパーティを抜けたい。
「そんなことより、姫はどこで寝泊まりしてるんだ?」
「あんたに教えるわけないじゃない」
「もし宿なら、宿代がもったいない。俺の家に泊まらないか」
「泊まるわけな」
「ぜひ。そうさせてください」
私の言葉を遮って、神作が先に答えてしまう。
ダミアンと出会ってからの彼女は何かがずっとおかしくて、奥に潜む企みがあるのかさえ分からないのはもはや恐怖の対象だった。
「宿を出る準備をして参ります。ここでお待ちください」
「おう。……夜が楽しみだな」
「そうだな。へへ、俺、女なんて久しぶりだ」
ドンとのやり取りから滲み出る下心に嫌悪しながら、ギルドを出ていく神作の後に続く。
「ちょっと神作。どういうこと?」
「なんのことでしょうか」
「色々よ!あんな奴に好き勝手させて……何を考えてるの?」
「己の利益のみを考えております」
「利益って……今のところ損しかしてないけど?」
「……明日になれば分かります」
飄々とした態度の彼女から得られる情報は無くて、ただただ困惑は増すばかりだった。




