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『異世界転生したら人生逆転できると思っていた。』  作者: 霜月 七日


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14/15

第14話 世界1の大商人も日本人なら、俺を助けてくれると思っていた。

事業は失敗し、借金の返済期限も目前に迫っていた。

王国最大の商業グループにも相手にされず、健太は追い詰められていく。

そんな中、隣国の帝国から世界最大の商業連合を率いる日本人が訪れるという知らせが届く。

健太は、最後の希望をその人物に託そうとする。

異世界生活、146日目。

「……銀貨60枚、ですか」

 田中健太は、商業ギルドの相談室で俯いていた。

 向かいに座っているのは、商業契約の調停を担当する職員だった。

 机の上には、分厚い契約書が置かれている。

「まず、状況を整理しましょう」

 職員は静かに言った。

「ザック金融商会から銀貨50枚を借り入れ、返済予定額は銀貨60枚」

「……はい」

「商店主オルバン様から、多機能四輪荷車5台の注文を受け、前受金として銀貨25枚を受領」

「……はい」

「しかし、商品は完成しておらず、納品期限も経過する見込み」

 健太は頷いた。

「さらに、従業員への給与支払いが残っている」

「……そうです」

 職員は書類を閉じた。

「田中様。現状では、事業を継続するよりも、債務を整理することを優先すべきだと考えます」

 健太は顔を上げた。

「……会社を潰せってことですか?」

「商会の営業を停止し、資産を処分することも選択肢の1つです」

「……」

「ただし、商会を閉じても、個人として負っている返済義務が消えるわけではありません」

 健太は黙った。

「……じゃあ、どうすれば」

「まず、現在の資産を確認しましょう」

 職員は紙を差し出した。

「事務所の設備、工具、材料、試作品。それから、現金です」

 健太は書類を見つめた。

 事務机。

 椅子。

 作業工具。

 木材。

 未完成の荷車。

 すべて、会社を大きくするために購入したものだった。

「……売るんですか?」

「必要であれば」

「……」

「それでも不足する場合は、債権者と分割返済について協議することになります」

 健太は、しばらく何も言えなかった。

 夢だった。

 自分の会社。

 自分の事務所。

 自分の社員。

 そのすべてが、今は借金を返すための資産として数えられている。

「……わかりました」

 ようやく、それだけ答えた。

 職員は頷いた。

「では、関係者を交えた調停の日程を決めましょう」

 健太は、小さく頭を下げた。


* * *


異世界生活、149日目。

「……田中代表」

 作業場で、ノルンが声をかけた。

「……何?」

「僕たち、今日で仕事を終えようと思います」

 健太は顔を上げた。

「……え?」

 隣には、フィルも立っていた。

「これ以上、製作を続けても、商品を完成させる見込みがありません」

 フィルは静かに言った。

「……」

「それに、材料も足りません」

 健太は黙った。

 以前なら、怒っていただろう。

 会社が大変なときに辞めるのか。

 最後まで責任を持て。

 そんな言葉を口にしていたはずだ。

 だが、今回は何も言えなかった。

 2人は、毎日作業を続けてくれた。

 商品を完成させるために、何度も設計を直してくれた。

 それでも、できなかった。

 原因は、2人の努力不足ではない。

 製造できるか確認する前に、注文を取った自分にあった。

「……わかった」

 健太は答えた。

 ノルンが少し驚いた顔をした。

「……いいんですか?」

「うん」

 健太は頷いた。

「今まで、ありがとう」

 ノルンとフィルは、顔を見合わせた。

 そして、深く頭を下げた。

「……こちらこそ、お世話になりました」

「ありがとうございました」

 健太は、少し迷ったあと、口を開いた。

「……給料は、ちゃんと払う」

 フィルが顔を上げた。

「……本当ですか?」

「今すぐ全部は無理だけど、商業ギルドを通じて、必ず払う」

 健太は答えた。

「約束する」

 ノルンは、ゆっくりと頷いた。

「……わかりました」

 そして、2人は自分たちの道具をまとめ始めた。

 健太は、その様子を黙って見ていた。

 しばらくして、ノルンが振り返った。

「……田中さん」

「……何?」

「荷車のアイデアは、面白かったです」

 健太は顔を上げた。

「……本当?」

「はい」

 ノルンは小さく笑った。

「でも、作るのは、思っていたより難しかったですね」

 健太も苦笑した。

「……そうだな」

 フィルが続けた。

「僕も、もっと勉強して、いつか完成させられるようになりたいです」

 健太は頷いた。

「……頑張って」

 2人は頭を下げ、作業場を出ていった。

 扉が閉まる。

 静寂が訪れた。

 作業場には、未完成の荷車だけが残っていた。

「……終わったな」

 健太は呟いた。

 ケンタ魔導技術開発商会。

 従業員、0人。

 商品、未完成。

 そして、借金だけが残った。


* * *


異世界生活、153日目。

「……これで、営業停止の手続きは完了です」

 商業ギルドの職員が、書類を差し出した。

 健太は、ゆっくりと署名した。

『ケンタ魔導技術開発商会』

『営業終了届』

『代表 田中健太』

 署名を終える。

 それだけで、あれほど自慢していた商会の営業は終わった。

 建物も、設備も、すでに処分を始めている。

 机や椅子は中古品として売却した。

 工具と材料も、職人組合へ引き取ってもらった。

 事務所の契約も、貸主と協議して終了した。

 商業ギルドの仲介によって、オルバンへの前受金は分割返金となった。

 ザック金融商会への返済も、資産の処分代金を充てたうえで、残額を毎月支払うことになった。

 従業員への未払い給与については、ほかの支払いと区別して精算予定を定めた。

 簡単な話ではなかった。

 誰もが、自分の金を返してほしかった。

 ザックは厳しい表情で返済計画を確認した。

 オルバンは、納品を信じて準備した倉庫の損失について説明した。

 ノルンとフィルは、働いた分の給与を求めた。

 そして、辞めたセシルにも、未払い分が残っていた。

 健太は、その全員に頭を下げた。

「……申し訳ありませんでした」

 何度も言った。

 以前は、頭を下げることが嫌いだった。

 自分が間違っていると認めるのが、負けのように感じていた。

 だが、今回は違った。

 頭を下げたからといって、借金は消えない。

 それでも、謝らなければならないと思った。

「……田中様」

 手続きを終えた職員が声をかけた。

「はい?」

「これからの収入について、見込みはありますか?」

 健太は首を振った。

「……まだです」

「では、まず働き口を探してください」

「……はい」

「返済計画は、継続的な収入があることを前提にしています」

 健太は頷いた。

 働く。

 普通に仕事をして、給料をもらう。

 それだけのことが、今はとても遠く感じられた。

「……わかりました」

 健太は、深く頭を下げた。


* * *


異世界生活、157日目。

 王都の大通りは、朝から多くの人で賑わっていた。

「……何だ、この人だかり」

 健太は、掲示板の前に集まった人々を見つめた。

 大きな紙が貼られている。

『ヴァルハイト帝国』

『九条国際商業連合』

『総帥・九条悠真、アルディア王国訪問予定』

 健太は首を傾げた。

「……九条?」

 隣にいた商人が、興奮した声で話していた。

「世界最大の商業連合を率いる九条様が、王都へ来るらしいぞ」

「しかも、帝国の第1皇女と一緒にだって?」

「本当かよ!」

 健太は、思わず振り返った。

「……第1皇女?」

 商人が頷いた。

「ああ。九条様の奥方だ」

「……え?」

 健太は固まった。

 世界最大の商業連合。

 帝国の皇女と結婚。

 まるで、異世界転生ものの主人公ではないか。

「……その人、何者なんですか?」

 健太が尋ねると、商人は驚いた顔をした。

「知らないのか?」

「……はい」

「九条悠真様だよ。45歳で、世界最大の商業連合を率いてるんだ」

 健太は目を見開いた。

「……45歳?」

「ああ」

「……日本人ですか?」

 商人は首を傾げた。

「ニホン?」

「……異世界から来た人ですか?」

「ああ、そういう噂はあるな」

 健太の心臓が跳ねた。

 また、日本人。

 しかも、今度は世界最大の商業連合の総帥。

 そして、皇女の夫。

「……すげえ」

 思わず呟いた。

 神崎隆一。

 王国最大の商業グループ会長。

 九条悠真。

 世界最大の商業連合総帥。

 どちらも、日本人。

 自分と同じ世界から来た人間だ。

「……やっぱり、異世界転生ってすごいじゃん」

 健太は、小さく笑った。

 今度こそ。

 今度こそ、人生を変えられるかもしれない。

 神崎には会えなかった。

 だが、九条ならどうだろう。

 世界最大の商業連合を築いた日本人。

 きっと、自分の苦労も理解してくれるはずだ。

「……会ってみたい」

 健太は呟いた。

 そして、掲示板に記された訪問予定日を確認した。

 異世界生活、163日目。

 あと6日。

「……よし」

 健太は拳を握った。

 今度こそ、チャンスをつかむ。

 そう決めた。


* * *


異世界生活、160日目。

「……九条様に会いたい?」

 商業ギルドの受付職員は、少し困った顔をした。

「はい!」

 健太は頷いた。

「俺も日本人なんです!」

「……そうなのですね」

「しかも、元商会の社長です!」

 職員は頷いた。

「承知しました」

「……面会の申し込みって、できますか?」

 職員は資料を確認した。

「今回の訪問は、神崎商業グループとの事業協議および王国政府との会談が中心となっております」

「……はい」

「一般の方との面会は、予定されておりません」

 健太は固まった。

「……え?」

「申し訳ございません」

 職員は頭を下げた。

 健太は唇を噛んだ。

 またか。

 また、会えない。

「……でも、同じ日本人なんですよ?」

「その点についても、特別な面会枠は設けられておりません」

 健太は黙った。

 そして、少し考えた。

「……じゃあ、九条国際商業連合に就職することはできますか?」

 職員は頷いた。

「募集がある場合は、所定の採用手続きを通じて応募できると思います」

「……採用手続き?」

「はい。職務経験や技能、希望職種などを確認することになるでしょう」

 健太は俯いた。

 また、実績。

 また、経験。

 どこへ行っても同じことを言われる。

「……俺、魔導機械の改良案を考えたことがあるんです」

 健太は言った。

「それなら、何か仕事をもらえませんかね」

 職員は慎重に答えた。

「その実績を示す資料があれば、採用や業務提案の際に評価される可能性はあります」

「……資料?」

「はい」

 健太は黙った。

 改良案の提案記録。

 商品企画。

 それらは、商業ギルドに残っている。

 だが、問題はその後だ。

 実際に設計したのは、ガレス。

 製造を進めたのも、ガレス。

 販売や契約をまとめたのは、レオンだった。

 自分は、最初のアイデアを出した。

 それだけだった。

「……そうですか」

 健太は、小さく答えた。

 そして、商業ギルドを出た。

 大通りでは、九条の訪問を歓迎する旗が掲げられ始めていた。

 健太は、それを見上げた。

「……何で、俺は駄目なんだろうな」

 小さく呟いた。

 同じ日本人。

 同じ異世界転生者。

 なのに、人生はまったく違う。

 その理由を、まだ理解できずにいた。


* * *


異世界生活、163日目。

 王都中央商業地区。

 大通りには、多くの人々が集まっていた。

 遠くから、立派な馬車が近づいてくる。

 護衛騎士。

 商業連合の旗。

 そして、銀色の装飾が施された大型馬車。

「……来たぞ!」

 誰かが叫んだ。

 歓声が上がる。

 健太も、人混みの中から背伸びをした。

「……あれか」

 馬車が、神崎商業グループ本社の前で止まった。

 扉が開く。

 最初に降りてきたのは、黒い礼服を着た男性だった。

 落ち着いた表情。

 無駄のない動作。

 周囲の人々が、一斉に頭を下げる。

「九条悠真様だ!」

 歓声が上がった。

 健太は息を呑んだ。

 45歳。

 世界最大の商業連合総帥。

 その男が、目の前にいる。

 続いて、馬車から女性が降りてきた。

 金色の髪。

 気品ある立ち姿。

 周囲を見渡す鋭い眼差し。

 エレオノーラ・フォン・ヴァルハイト。

 ヴァルハイト帝国の第1皇女であり、九条の妻だった。

「……すげえ」

 健太は呟いた。

 まるで、物語の中の登場人物だ。

 九条は、エレオノーラへ自然に手を差し出した。

 彼女は、その手を取って馬車を降りた。

 そして、神崎商業グループ本社の入口へ向かった。

 そこには、神崎隆一が立っていた。

「九条さん。お久しぶりです」

 神崎が微笑んだ。

「神崎さん。お招きいただきありがとうございます」

 九条は握手を交わした。

「今回も、良い仕事ができることを期待しています」

「こちらこそ」

 神崎は頷いた。

 そして、エレオノーラへ頭を下げた。

「皇女殿下。ようこそ、アルディア王国へ」

 エレオノーラは微笑んだ。

「お久しぶりです、神崎会長」

 そして、静かに続けた。

「今回の協議が、両国にとって実りあるものになることを願っています」

「ありがとうございます」

 神崎は頷いた。

 3人は、そのまま建物の中へ入っていった。

 健太は、呆然と見つめていた。

「……本物だ」

 小さく呟いた。

 同じ日本人。

 同じ異世界から来た人間。

 なのに、あの2人は、まるで違う世界にいる。

 神崎。

 九条。

 そして、皇女。

 それが、異世界で成功した人間の姿だった。

「……俺だって」

 健太は呟いた。

「俺だって、最初は頑張ってたんだよ」

 誰に言うでもなく、そう口にした。

 だが、その言葉は、人々の歓声にかき消された。


* * *


同じ日の午後。

 神崎商業グループ本社、5階。

 会議室では、九条悠真と神崎隆一、そしてレオンが向かい合っていた。

「……魔導回転機の改良事業について、資料を拝見しました」

 九条が静かに言った。

 神崎は頷いた。

「ありがとうございます」

「非常に興味深い取り組みですね」

 九条は書類を開いた。

「ただし、改良の適用範囲については、慎重に判断する必要があります」

 レオンが頷いた。

「はい。現時点では、用途によって効果に差があります」

「なるほど」

 九条は微笑んだ。

「その点を正直に報告されているのは、良いことです」

 そして、ガレスの製造記録へ目を向けた。

「技術的な改良を担当されたのは、ガレスさんですね」

「はい」

 レオンが答えた。

「現場での試験と設計変更は、彼が中心となって進めました」

 九条は頷いた。

「優秀な職人ですね」

 神崎も頷いた。

「私も、そう思います」

 九条は書類を読み進めた。

 そして、ある名前で手を止めた。

『初期改良提案者:田中健太』

「……田中健太?」

 九条が呟いた。

「この方も、日本人ですか?」

 レオンが頷いた。

「はい。日本から転生してきた方です」

「……なるほど」

 九条は少し考えた。

「改良の原案を出された方、ということですね」

「はい」

 レオンが答えた。

「ただし、実際の設計や製造に関しては、ガレスが担当しました」

 九条は頷いた。

「それでも、原案の貢献は記録しておくべきでしょう」

 神崎も同意した。

「もちろんです」

 そして、九条が尋ねた。

「その田中さんは、現在どうされているんですか?」

 レオンは、少し表情を曇らせた。

「……実は、商会を設立されたのですが」

「……はい」

「事業がうまくいかず、営業を終了されたと聞いています」

 九条は黙った。

 そして、静かに頷いた。

「……そうですか」

 神崎が口を開いた。

「先日、当社にも事業提携の申し込みに来られたようです」

「……そうなのですか?」

「はい。ただ、必要書類が揃っていなかったため、審査には進んでいません」

 九条は少し考えた。

「……なるほど」

 そして、静かに言った。

「アイデアを出す能力と、事業を運営する能力は、別ですからね」

 レオンは頷いた。

「おっしゃるとおりです」

 九条は続けた。

「ただ、その方が何かを学ぼうとしているのであれば、再挑戦の機会はあると思います」

 神崎も頷いた。

「私も、そう思います」

 九条は微笑んだ。

「失敗した人間が、必ずしも無能というわけではありません」

 そして、書類を閉じた。

「問題は、その失敗から何を学ぶかです」

 会議室には、静かな空気が流れていた。


* * *


異世界生活、166日目。

「……田中さん」

 商業ギルドの職員が声をかけた。

「はい?」

「返済計画について、確認がございます」

 健太は、席に座った。

「……はい」

 職員は書類を広げた。

「先日の資産売却と債権者との調停により、返済条件を整理しました」

 健太は頷いた。

「……ありがとうございます」

「ただし、今後も定期的な返済が必要です」

「……はい」

「現在、お仕事は見つかりましたか?」

 健太は首を振った。

「……まだです」

 職員は頷いた。

「では、こちらの求人をご覧ください」

 紙が差し出された。

『神崎商業グループ』

『王都東部物流センター』

『倉庫作業員募集』

『給与:月額銀貨6枚』

『試用期間:3か月』

 健太は固まった。

「……神崎商業グループ?」

「はい」

 職員は頷いた。

「現在、物流センターで人員を募集しています」

 健太は書類を見つめた。

 神崎。

 王国最大の商業グループ。

 同じ日本人が経営する会社。

 自分が、事業提携を申し込んだ会社だった。

「……倉庫作業員?」

「はい」

「……荷物を運ぶ仕事ですか?」

「主に、仕分けや搬入出の作業だと思います」

 健太は黙った。

 少し前まで、自分は社長だった。

 社員に指示を出す立場だった。

 それなのに、今度は倉庫で荷物を運ぶ。

「……俺、元社長なんですけど」

 思わず口にした。

 職員は静かに頷いた。

「承知しております」

「……商品企画とか、そういう仕事はないんですか?」

「現在、紹介可能な求人はこちらになります」

 健太は書類を見つめた。

 給与、月額銀貨6枚。

 決して高くはない。

 だが、今の自分には収入がない。

 返済しなければならない借金もある。

 そして、何より。

 自分には、仕事が必要だった。

「……わかりました」

 健太は、小さく答えた。

「応募します」

 職員は微笑んだ。

「では、手続きをご案内します」

 健太は深く頭を下げた。

「……よろしくお願いします」

 そして、求人票を受け取った。

 異世界生活、166日目。

 田中健太、34歳。

 元ケンタ魔導技術開発商会代表。

 事業失敗。

 借金返済中。

 そして、再就職活動中。

 かつて、異世界転生すれば、何もしなくても人生が変わると信じていた男。

 その男は今、月額銀貨6枚の求人票を握りしめていた。

 そこには、社長という肩書きも、特別な才能も必要なかった。

 必要なのは、毎日決まった時間に働き、任された仕事を最後までやり遂げること。

 健太は、しばらく求人票を見つめていた。

「……俺に、できるかな」

 小さく呟いた。

 不安だった。

 だが、今度は少し違う。

 誰かに認めてもらうためではない。

 誰かに助けてもらうためでもない。

 自分の生活を立て直すために。

 そして、自分が負った責任を果たすために。

 健太は、もう1度歩き始めた。

日本人という共通点があっても、それだけで特別な扱いを受けられるわけではありません。

神崎と九条が築いた成功の裏には、積み重ねてきた経験と実績があります。

一方、会社を失った健太にも、まだ人生は残されています。

失敗したあと、どんな道を選ぶのか。その選択が、彼にとって大きな意味を持ち始めています。

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