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鬼ヶ島への帰還  作者: 遠山枯野
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岸辺の戦い

 鬼たちはまるで我々が来るのを予期していたかのように、海岸に陣を敷いて待ち構えていた。その数に圧倒される。こちらの軍勢は180人と60匹程度、それに対して、相手の方少なく見積もってもその20倍はいる。陸地と海上に約半分ずつ、巨体の群れがひしめいている。ただでさえ、人間より身体能力で上回る鬼たちが、数において圧倒的多数なのだ。


 船上で、桃吉は膝から崩れ落ちた。


 すでに入り江に船を乗り入れていた桃吉郎の船団を鬼の海軍が瞬く間に包囲していく。陸も海も逃げ場がない。


「な、何なんだこいつらは、聞いてねーぞ。おい、三寸、こりゃ無理だろう。引き返そうぜ。」


 三寸法師は腕組みしている。


「おかしいな。事前の情報では、鬼の数は100人に満たぬと聞いていた。それに、この備え、まるで我々の襲来を知っていたかのようだ。」


「事前の情報ってなんだよ、ちゃんと調べたのか?」


「いや。簡単に潜り込める場所ではない。数カ月前、鬼ヶ島に漂流して、生きて戻ってきたという村人がいて、そこから聞いた話だ。」


「なんだよ、もう無理だろこれ。とにかく、引き返そうぜ。」


「いまさら、無理でござる。囲まれております。ここは、しんがりを浦島次郎にまかせ、上陸して、陸地に活路を見出しましょう。」


 桃吉郎と共に乗っている船を別の水兵に托すと、浦島次郎は別の船に乗り組んで、背後へ向かった。

三寸法師はまったく動揺を見せない。


「本気か? 勝算はあるんだな?」


「ええ。あの鬼どもは見かけほど狂暴ではありません。突撃の合図を。」


 桃吉郎は昔、生きた鬼を遠目には見たことはある。捉えられて日の光にさらされ、弱っている状態であれば、間近にも見ている。自分たちを睨みつける鬼を改めて見ると、その風貌に身の毛がよだつ。一回り大きな背丈、分厚い体躯の上に乗った醜い皺くちゃの顔には、頬まで裂けた口からはみ出た二本の大きな牙、太い眉の下のカッっと見開いた目玉、縮れた髪から突き出た二本の角。


 ここまできたら、後戻りもできぬし、仲間を信じるしかない。桃吉郎は覚悟を決めて、出陣の狼煙を上げた。


「よし、陸に向かって、矢を放て!機を見て上陸せよ!」


 鬼の方も飛び道具は用意しているようだ。矢が飛び交う混戦となった。腕力ではかなわぬが、弓の勝負ならまだ太刀打ちできる。栗ノ介を中心とした部隊が速くて精度の高い矢を浴びせていく。じわじわと陸地との距離を詰めていく中、周囲から挟み撃ちにするように鬼の船団が迫ってきた。これはまずい。


 そのとき、後方から奇妙なほら貝の音が海面を這うように響き渡った。浦島次郎の号令だ。


 海が大きく揺らぐのを感じた。揺らいでいるのは、鬼たちの船が浮かぶ海面だけである。鬼たちの船は大きく振れ、バランスを崩した鬼たちが次々と海へ放り出されていく。


 何かが海面の下で暴れている。そのものの頭が見えた。亀だ。亀たちが船の底を揺らしている。

船に這い上がろうとする、鬼たちを水兵が槍で打ち取っていく。海を制した桃吉の船団はついに陸地に到達した。桃吉郎は再び指令を出す。


「犬たちが先陣だ。猿は後方から援護、雉たちは上空から挟み撃ちにせよ。」


 猟犬が鬼の首筋にかみつき、猿は鋭い爪で背中を引っかき、雉たちはくちばしで目つぶしを食らわせる。これが父上と共に戦った仲間たちの末裔なのか。


 逃げ出そうとする鬼たちを、銀太郎の軍勢が刀を持って切り捨てていく。鬼たちの軍勢は総崩れとなり、奥地へと逃げ帰った。


 追撃指示を出そうとする桃吉郎を三寸法師が制止した。


「深追いはなりませぬ。島にいる鬼の数の全容がつまめませんし、奴らも罠を張っているかもしれません。」


 思えば、動物たちの活躍があったとは言え、数でも優る鬼たちがこんなに安々と引き下がるのも妙な話だ。しかももうすぐ日が暮れる。中心にそびえる山並みが色肌を失いかけていた。もともと靄に覆われた薄暗い島にも夜の帳が下りようとている。


 夜になると鬼の力は倍増すると言う。賢明な判断だ。桃吉郎は号令をかけた。


「よし。今日はここまでだ。きびだんごを食べて英気を養え。」


 砂浜には鬼が残していった無数の大きな足跡が残っている。指の爪は3本のようだ、獣のような足を形取っていた。きびだんごを食べていると、いつの間にか隣に気配を感じた。振り向くと、黒装束の小柄な人影があった。唯一露出している目元が若い女性のまなざしを放っていた。先代から忍びとして仕えている李(すもも)である。野営地の調査を頼んでおいたのだ。


「ちょうどよい岩陰がございました。おそらく、鬼の拠点からも死角になり、火を焚いても気付かれないでしょう。南岸ですので、鬼もあまり近寄らない場所です。」


「よし、そこへ皆で移動しよう。」


 移動を開始しようとしたとき、銀太郎の軍団から遣いが走ってきた。


「敵の将を一人とらえましたぞ。拷問して情報を吐かせましょう。」


「よし、そいつも連れていけ。」


 できるだけ移動の痕跡を残さぬよう、一旦、船で沖に出た後に、島を回り込んで、目的の場所へ向かった。鬼との戦いに夢中で気付かなかったが、本当に不気味な島である。薄靄がそうさせるのかもしれないが、尖った岩石や歪な草木がいちいち鬼の陰にように見えてしまう。何かが潜んでいるような予感。異常な警戒心が幻覚を見せているのかもしれない。いるだけで少しずつ精気を吸い取られそうな場所である。

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