仲間たち
桃吉郎を助けなければ・・・
しかし、銀太郎にはどうすることもできなかった。一匹とやり合うのさえ骨が折れるのに、三、四匹の鬼を同時に相手にせねばならぬのだ。気を逸らせば、こちらが鬼の餌食にされてしまう。部隊の仲間の何人かが、頭から血を流して倒れているのが見える。大地を揺らすほどの怪力で金棒をたたきつけられたら、ひとたまりもないだろう。
鬼の攻撃をかわしながらも、横目で、桃吉郎の方を見ていた。
倒れている。
しかし、鬼はとどめをささなかった。赤鬼は桃吉郎のぐったりとした体を、その大きな肩に米俵のごとく担ぎ上げると、丘を下りて行った。
「桃吉郎!」
鬼は遠のいていく。
とどめを刺さなかったところを見ると、しばらくは生かされるだろう、という望みがある。恨んでいる人間に対しては、苦痛を与えながら、殺していくというのが、赤鬼や青鬼に常套手段だ。空が白んできた。おそらくは今夜の晩餐がその時になるだろう、と見込んだ。
鬼たちの数が少しずつ減っていった。
いちばんの目的は桃吉郎をとらえることであり、それを果たしたためなのか。それとも夜明けが近づいたためだろうか。
銀太郎は叫んだ。
「よし、今だ! 鬼から離れ、一目散に逃げよ! 船のところで合流するぞ!」
何匹かは船着き場まで追いかけてきたが、待ち構えていた浦島次郎の水兵隊が弓矢を放ち威嚇した。船に乗り込み、沖まで非難すると、それ以上、鬼は追ってこなかった。薄闇の中、光る眼でこちらを見つめていたが、やがて引き上げていった。
浦島次郎はこんなときでも陽気だ。
「おっかねー顔してんな。鬼ってのは。昼間の緑の鬼よりも貫禄を増したようだ。」
銀太郎が彼の方を見ると、甲板に積まれた華やかな箱の山が目についた。
「ところで、そなた、夜の間、どこに行っておった。」
「あ、いや・・・そなたたちが大変な思いをしているときに、言い難いんだが、その・・・亀たちの勧めで、竜宮の城へ・・・あ、いや、戦に役立つ武器を仕入れてきたのじゃぞ、それが、姫たちがどうしてももてなしたいというから、さすがに断ったが、お土産だけはもらってきたのだ。わし一人で抜けたところで、戦局にたいした影響はないであろうよ。な、な。」
そういって、次郎は銀太郎の肩を叩いてきた。
「そうか。」
そのとき、別の船が近づいていて、水兵の一人が次郎に報告した。
「お頭。夜の間、船に積んであった食料の一部が鬼たちに盗まれたようです。」
「なに!追わなったのか!」
「いや、それが、盗まれたのは、物ぐさ善太郎殿が個人的に持ち込んだ酒樽のみだそうで。他には手を付けようとしなかったので、見逃しました。」
銀太郎が追加で訪ねた。
「その鬼はどんな肌の色をしていた?」
「緑だそうです。」
「くぅ、何を考えてるんだ。」
銀太郎はあきれた。次郎は安堵の息を吐いた。
「あー、あんだよ、焦らすなよ。」
日が昇る頃、といっても、太陽は見えないのだが、ぼんやりと空の一部が輝き、島に光が戻ることになって、仲間たちが続々と岸辺に集まってきた。金太郎の部隊、桃太郎の直属の部隊がそれぞれ半数ほどに減っていた。彼らも体のどこかに傷を負っているようだった。足を引きずる者の、肩を抑えるも者など、昨夜の戦のすさまじさを物語っていた。
犬、猿、雉も現れたが、こちらはほぼ残っているようだった。鬼たちがまともに相手にしなかったのだろう。
浦島次郎は船を陸につけた。柿兵衛が足を引きずりながら、砂の上を歩いて近づいてきた。苦悶の表情で、状況を伝えた。
「殿がさらわれてしもうた。鬼は引き上げたようだが、生き残ったのはここにいる者だけだ。残った者も怪我を負っている。おそらく殿は今晩までは生かされるだろう。まずは戦える者を選別し、策を練る。」
銀太郎は頷いた。問題はその策である。ただでさえ、鬼よりも少ないところに、戦力の半数を失った今、そして、圧倒的な力を見せつけられて、戦意を喪失しているところで、まともに戦っては勝ち目がない。悩んでいるところに、浦島次郎が割って入った。
「まずは、この薬草を傷口に塗ってみろ。」
彼は、箱を開けると、刺激臭が漂ってきた。この生臭さ、いったい何を混ぜたんだ。ケガをしている兵士が手に付けて傷口に塗り始めた。浦島次郎も塗るのを手伝った。
「塗った直後は刺激が強いが、しだいに痛みが和らぐようだな。気のせいだろうか。」
「たしかに、腕を楽に動かせるようになった。どこでこのような妙薬を手に入れた。」
浦島次郎が答えた。
「竜宮城だよ。」
そして、竜宮城の話を始めた。
「亀に教えてもらったのさ。きび団子を与えると、口を利くようになるって、本当だったんだな。海底に主が収める城があるから、団子を分けてくれたら案内するってさ。俺の一族には助けてもらった恩があるから、特別に案内するって言うんだ。戦をしているなら、武器も貸せるって言うからさ。海の中に城があるなんて、そんな馬鹿なって思った。そしたら、不思議なことに、亀に捕まっていると、海の中なのに濡れないんだよ。呼吸もできる。そして、海底にぼんやりと光る城が現れたんだ。城の門をくぐるとそこは、水がなく、空気の層になっていて、地上と同じように過ごすことができる、窓からは周りの水の中を泳ぐ魚たちが見えるんだ。そこにはお姫様とその使用人が済んでいた。まさか、兄が言っていたことが本当だったとはな。てっきり、原因不明の老化で、頭もおかしくなっちまったと思ってたんだ。玉手箱っていう不思議な箱ももらったな。家に着いたら開けるようにってな。」
「それは空けない方が良いのではないか?」
「わかってるさ。でな、宝物よりも、戦中だから、戦に役立つものが欲しいって、頼んだんだ。そしたら、巨大魚を仕留めるときに使う、槍を100本と、傷が治る薬草をくれたんだ。」
「それはそうと、お主、酒臭いな、それにお香の匂いがする。さては女を抱いたな。」
「しかたないだろう。もてなされたら、断るのは失礼だしな・・・。わ、わかったよ。おぬしらも後で連れてってやるからさ・・・」
武器と薬草を得ることができたのは良かったのだろう。焼け石に水かもしれないが、上手く活用して、まずは、桃吉郎を救い出さねばなるまい。銀太郎たちがその通常より長い槍を手に取って見分していると、犬と雉が駆け寄ってきた。何やら騒いでいる。黍団子を食わせると、言葉を発した。
「向こうで魔太郎が倒れているぞ。」




