黒歴史
「ラディ、仮にも俺はこの街の領主でラディの雇用主なんだぴょん」
「ええ」
俺はあの後すぐに捕まり、うさぎの着ぐるみを着せられ執務室にて正座をさせられている。
ちょっと悪ふざけをしただけでこのザマである。
「何故うさぎの着ぐるみを着せられているんだぴょん……」
「てっきり語尾にぴょんを付けていたのでうさぎの着ぐるみを着たいのかと思いまして」
「もう許してぴょん」
既にこの体勢でラディに睨まれながら説教をされ始めて1時間は経っている。
俺のこの足がプルプルと可哀想なことになっているのだ。
「次同じことをしたら主様の黒歴史とやらを箱庭新聞に載せてもらいますからね」
「善処するぴょん」
……ちょっと待て、俺の黒歴史とは何だ。
思わず返事をしてしまったが俺自身に身に覚えがない黒歴史とか1番怖いのだが。
その黒歴史で領主としての人生が詰むことはないよな?
……え、本当にないよな?
「…………」
「その意味ありげな微笑みは怖いからやめてほしいぴょん」
こうして俺は説教から解放されたのに黒歴史という弱みを握られ続けるのだった。
そういえば急遽ラディから逃げるミッションが始まってしまい住民ガチャを回すのを忘れていたが、一旦ヘレナが出たから良しとしよう。
それよりも今後、俺は護衛であるラディからどうやって逃げるかを考えなければいけない。
候補としては子供の頃憧れた足が早くなる靴の大人バージョンとして、ローラースケートに俊敏の効果を付与してもらうとかどうだろうか。
これも男のロマンだろう?
それよりも少し大きくなったラシオンに乗る方がいいかもしれない。
夜の空中散歩とか出来たら楽しそうである。
だがラシオンに乗るための鞍がまだ作れないな。現実世界には簡単にラシオンを連れては行けないし、住民の中に革細工師はまだいない。
かと言って、鞍なしでラシオンに乗ったら俺は多分……うん、辞めておこう。
鞍なしで乗るぐらいなら俺は不本意だが羽根をつけて飛んで逃げた方がいいだろう。
……ところで俺は最近逃げ続けることが多すぎないか?領主って屋敷で、ドンッと構えてるイメージだったのだが。
筋肉乙女といい暗殺うさぎといい何故俺は追いかけられてばかりなのか。全くもって理解不能である。
こういう時は実家に行って母さんのご飯を食べさせてもらおう。
決して俺はマザコンという訳ではない。
今、無性に食べたくなっただけだ。
昔から行き詰まった時や、落ち着いて物事を考えたい時は母さんの作るオムライスを食べると上手くいくことが多かったのである。
ロリコン疑惑に加えてマザコン疑惑までかけられたら領主として致命的すぎるだろう。
俺はセバスに一言告げ、両親の家に向かった。
「父さーん、母さーん、オムライスを食べに来た」
「おお、作ってもらうといい」
「全く、来るならもう少し早く言いなさい」
なんだかんだ言っても作ってくれる母さんだ。そういうところが優しくて好きなん……いや、なんでもない。
「ところで春樹、10歳はさすがにだめだろう」
「ブフォォッ!」
俺は思わず飲みかけていたお茶を吹き出した。まさか、ついさっきの出来事を父さんに言われるとは。
それよりもなぜ知っている?
「父さん……どこでそれを」
「さっき子供たちとデュークさんが、大スクープだと言って走り回っていた。領主様、恋のお相手はまさかの14歳差の侍女見習い!?とな。明日の箱庭新聞の見開きにするらしい」
「あいつら……!俺のプライバシーも何もないじゃないか。黒歴史とやらが何かもわかっていないのに」
父さんと話しているとどうやらオムライスが出来たみたいで、俺たちは一緒に食べ始めた。
「そういえばその黒歴史とやらを、最近春樹の護衛の方が聞きに来たわね」
「まさかのリーク元が両親だったとは。それでその黒歴史って何のことだ?俺は言われて困るようなことはなかったと思うんだけど」
例えば小学生になるまでおねしょをしていたとか、兄貴のおもちゃを壊したとかそんなところだろう。
それよりも何故ラディは俺の黒歴史を両親に聞きに来たのだろうか。
そんなにも領主である俺の弱みを握りたかったのか?
「そうねぇ、学生時代の歴代彼女の名前は全員語尾に『たん』をつけて呼んでいたことかしら?」
「何故それを……」
それは紛れもなく俺の頭から強制的に忘れようとしていた黒歴史であった。




