ラディが敗北する?
現実世界で鳳凰がうさちゃんズと呼ばれ始めている頃、俺はエリオットの研究所に来ていた。
「エリオット、これはどういうことだ?」
俺は今日発行された箱庭新聞の見出しをエリオットに見せる。
『ユグドラシル研究所に未確認飛行物体が襲来!』
一瞬UFOかとも思ったがここは箱庭。
その可能性は低くなり、俺はエリオットが何か作ったのだろうと思って来たのだが……
「飛行物体……というとこれですかね?」
そう呟くとエリオットはどこからかルンバを持ってきた。
……え、ルンバ?
「エリオット、それではない。ルンバは空を飛ばないんだ」
「いえ、見ててください!こうすれば飛ばせるんです!」
するとなんということでしょう。ルンバが空を飛び出したではありませんか。
……俺は幻覚を見ているのだろうか。それとも最近のルンバは進化して空も飛ぶようになったのか?
「エリオット何をしたんだ……」
「この高度な自立型ゴーレムに飛行魔法を付与して天井なども掃除が可能になりました!」
地味に便利な機能になっているせいで怒れないではないか。
これは世の中の女性たちも欲しいだろう、よくやったエリオット。
だがこれは高度なゴーレムではない。
ロボットとゴーレムの違いが俺にはよくわからないが。
「エリオット、一応聞くが可愛いメイドのゴーレムとかは作れるのか……?」
「ホムンクルスということですか?それなら作れると思いますけど、欲しいのですか?」
「いや、聞いただけだ。俺はまだ可愛い人間のメイドを諦めたわけではない」
本当に一応聞いただけで嘘ではないぞ?
これ以上ガチャで爆死した時の保険で作れるか知りたかっただけだ。
俺がガチャから出てくるメイドにこだわって、現実世界でメイドを募集しないのには訳がある。
一旦、両親や福田さんは別としてガチャから出てきた住民たちはこの箱庭以外に居場所はない。
戸籍がないから現実世界では暮らせないし、種族も違うから簡単に外に出ることも出来ない。俺が彼、彼女らの住むところを守らなければいけない立場だ。
だが、現実世界で居場所があるメイドたちを呼べばどうなるだろうか。
もし、他の住民たちと合わずやっぱり現実世界に戻りますってなったときにこの箱庭のことを誰彼構わず話したりするかもしれない。
それに1度でもこの箱庭に住むことを許可したのに、やっぱり出ていってくださいとも言いづらい。
福田さんは深夜の公園で今すぐにでも儚くなろうと思い詰めていた人だ。
状況が状況とはいえ、ああするしかなく現実世界にも居場所はあるかもしれないが、他の住民とも仲良くしてくれているし今のところは問題はないだろう。
そういったこともあって、簡単にメイドを現実世界から呼べないのが現実である。
結局何が言いたいかというと、ガチャで可愛いメイドをそろそろ当てたいということだ。
俺はガチャのために研究所を後にしてギルドへ向かって歩いていた。
するとギルドの中から言い争いのような声が聞こえ、俺は駆け足で中に入っていった。
「ですから、元とはいえ帝国暗殺部隊隊長である私がわざわざ身分をバラすような書類に名前を書くわけがないでしょう!」
「ですが、今このユグドラシルにいる住民で身分証明書を作れていないのはヴラディミールさんだけなのです」
ラディが田中さんに殺気を放ち、今にも殺しそうな雰囲気があるが、田中さんは淡々と書類作業をこなしている。
それに身分証と言っても名前や年齢、家までバレているのだからラディも素直に書けばいいものを。
「主様」
「ラディ、あまり田中さんを困らせるな。確かに暗殺部隊隊長の時は身元がバレるようなことはいけなかったかもしれない。だけど、ここでは暗殺はしなくていいのだし、バレて困るようなものでもないだろ?」
「そうですが……しかし、なぜこの男は私の殺気に屈することもなく平然と書類作業が出来るのですか!」
それは俺も気になる。殺気を浴びせられていない俺ですら少し腰が引けたというのに。
実は田中さんは裏で極道だったり、暗殺家業でもしていたというのなら納得するのだが。
「元帝国暗殺部隊?甘いですね。私は元々、怒り狂ったクレーマーが毎日何十人と押し寄せる市役所の市民課に10年も居たのですよ。あなたの殺気などあの頃の残業手当が出ない絶望に比べればそよ風のようなものです」
「くっ……!仕方ない、この書類を書いて渡せばよいのですね?」
「ええ、書けましたらこちらにセバスさんか春樹くんのハンコも貰ってきてくださいね」
こうして2人の中では決着が着いたようだ。
俺はガチャを引きに来ただけなのだが、元帝国暗殺部隊隊長より元市役所勤務のおっさんの方が強いと証明された瞬間を見たのだった。




