(閑話)ダンジョン配信
ここは東京八王子にある八王子ダンジョン。
そのダンジョンでBランク冒険者である花咲夢は初めての生配信を行おうとしていた。
「皆さんこんにちは!今日はなんと……夢の初生配信になります!ちゃんと見えていますか!?」
今までダンジョン配信といえばカメラで録画したものを編集して動画にするのが当たり前で、夢もそのうちの1人だった。
それが最近ユグドラシル商会から発売された魔導スマホがダンジョンで電波が届くと知り、配信界隈では話題になった。
少々値段は高かったが夢はBランク冒険者ということもあり手に入れることが出来たのだ。
普段ダンジョンには2人で潜っており、もう1人は妹の花咲 希。カメラマン兼ポーターである。
:きちゃ!
:本当に生配信だ!
:凄すぎる
:夢たん今日も可愛い
:こんにちは〜
:八王子ダンジョンだ
:危ないから気を付けてね!
魔導スマホの画面を確認すると問題なくコメントがリアルタイムで流れてくる。
今日はあくまでもダンジョンで問題なく魔導スマホで配信が出来るかの確認と、八王子ダンジョンでの慣らしだ。
夢は希とアイコンタクトを取り、ダンジョンの中を進んで行く。
「みなさん、あれは女性の敵とも呼ばれているオークです!いつも通り私がパパっとやっつけてくるので見ていてくださいね!」
:大丈夫!?
:頑張れ!
:夢たんが危ない!
:実際Bランクならオークぐらい余裕だろ
:おい、オークそこ変われ
:夢たんは武器じゃなくて使うのは拳だからな……
:俺も蹴られたい
「次そんなこと言ったら本気で蹴りますからね?」
夢のリスナーは大半が男性で、普段から動画には度々この手のコメントが来る。
夢はある意味普段の動画で慣れていて、何とも思わないからいいのだが、一応妹もいる手前注意をしないわけにはいかないのだ。
◆◆◆
「さて、15階層にやってきました!ここからはBランクでも油断すると危なくなってくるのでみなさんも気を……あれ?」
:夢たんどうしたの?
:何かあった!?
:敵はまだいなさそうだけど
:ねえ、あれって
:俺の見間違いか?
:いやあの顔は本人だろw
2時間程経ち、夢たちは15階層まで降りて来ていた。
そこは先程までの森林エリアとは変わり薄暗い洞窟エリアで、ジメジメとした薄気味悪さがあり女性冒険者たちに不人気の場所である。
そんな場所の中央でモンスターと戦っているのは夢の憧れでもあるSランク冒険者パーティー鳳凰であり、そのリーダーである九条は何故かうさぎの着ぐるみを着ていた。
「ね、ねえ。みんな、私の見間違いよね?まさか鳳凰が……九条さんがうさぎの着ぐるみを着るはずないよね?」
:現実だw
:ところであの装備なにw
:面白すぎる
:最近高ランクパーティーの装備みんな変
:確かに
:で、鳳凰は何してるんだ?
:このダンジョンにいるの珍しいよな
:それにしてもうさぎが似合わない男九条
:可愛いけどな
コメント欄ではSランク冒険者パーティー鳳凰の映り込みに盛り上がっているが、夢たちは複雑な気持ちでいた。
冒険者になろうと志した憧れの鳳凰がうさぎになっている。ここはダンジョンではなく遊園地だったのかと。
そんな時モンスターを倒し終わった九条が他のメンバーに告げた。
「よし、この性能は間違いないぴょん!お前たち、俺に着いてくるんだぴょん!」
「……え?」
:え?
:今ぴょんって言った?
:さすがにwww
:まさかw
:あの厳つい顔からぴょんはギャップ
:聞き間違いじゃなかったかw
:黒瀬も白石も呆れた目だがw
:夢たん静かだけど大丈夫?
:放心中
:早すぎてもはや残像www
:前から憧れだって言ってたしなw
:憧れの人がうさぎになった件について
:しんどいwww
:ぴょんぴょん言って走り回ってるw
:当たらなさすぎてもはやピンクの死神
:【悲報】鳳凰、うさちゃんズに強制改名
夢はコメント欄を見て自分の聞き間違いでないということを悟った。
これ以上配信を続けたところで今日これ以上の見せ場はもうないだろう。
地上に戻ろうと転移陣までやって来たところでふと思い出す。
「さっき鳳凰のことをうさちゃんズって言ったの誰!?」
後にこの配信のアーカイブは消されたが、九条が着ぐるみを着て語尾にぴょんをつけて話していたところを切り抜かれて夢ではなく、鳳凰がバズることになる。
憧れのパーティーの変わりように落ち込んだ夢たちは少しの間配信活動を休止することにした。
その間、邪念を払うかのようにダンジョンでモンスターを倒しまくる女性が度々目撃されるようになったのは言うまでもない。
その後全国各地でこの着ぐるみを手に入れた者たちはダンジョンでピンクの死神と恐れられ、その裏ではうさちゃんズが定着し始めていることを鳳凰はまだ知らない。




