追いかけっこ
3月になり季節もだいぶ暖かくなってきた頃、ガンナーたちによる競馬場が完成した。
間違いなく今までで一番時間がかかり、難しかったであろう建物。
簡単そうに見えるが馬が走りやすいようにしたり観客席を作ったり、そして何より規模が一番大きくて大変だったのだ。
今後スレイやプニルたちに加え、他にも馬が増えたら新しい娯楽として住民たちも楽しめて、馬たちも走れていい事づくめだろう。
当分はスレイとプニルがただ駆け回るための広場になる予定だが。
そして競馬場が完成した翌日、何故かスレイたちではなく俺がトレーニングジムで走っていた。
「どうしてこうなった?」
せっかくだからスレイたちに乗って競馬場を走ろうと思っていたのだが、相変わらず紫琉米星と刺繍入りのマントを着ているジルに捕まりジムに連れてこられたのである。
「すまない、俺一人ではバルマリークの手綱を握ることは不可能だと気付いたんだ……あのモンスターに対抗するためには俺たちも鍛えなければいけない」
「え、俺も?」
ジルでも無理なのに俺はもっと無理じゃないか?
ゴブリン以下の俺が、あのはち切れそうな大胸筋モンスターに勝つことなど天変地異が起こったとしても無理だ。
「諦めるにはまだ早い。いざという時は勝負パンツを履こう」
「ジル、一応マリーはあれでも敵ではなく人間なんだ」
「そうか……勝負パンツは意味がなかったか」
だが、何もしないよりはしていた方がいいだろう。
俺とジルはまず疲れにくい体づくりのためにランニングマシンで走ることにした。
心肺機能や持久力向上のためである。
「な、なあ。なんで俺はこんなにゆっくりでも疲れているのにジルは最高速度で走っても平気なんだ?」
「強敵と戦うために俺は鍛えてきた。俺の脚力に着いてくるんだ!」
「俺のこのカモシカみたいな足を見てもまだ言える?」
そしてその強敵とやらはきっとマリーのことだろう。
最高速度で走っているジルだが、先にマシンの方が悲鳴をあげそうである。
摩擦でベルトが炎上したり爆発したりしないだろうな?
「……はっ!それで物理的な脂肪燃焼ということか!?」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」
その後、俺はゆっくり走っただけでもう何も出来なくなり、ジルにお姫様抱っこで屋敷に連れて行かれることとなった。
せっかくスレイたちに乗って駆け回る予定だったのだが、筋肉痛が治るまではお預けになりそうだ……
そして翌日の箱庭新聞には見開きで『領主様を射止めた騎士団長、お姫様抱っこをして愛の巣へ帰る!』と書かれていた。
そこにはデュークが撮ったのだろう、俺がお姫様抱っこされている写真が貼られている。
やはり子供たちに加えてデュークにも説教が必要かもしれない。
そう思ったが動けない俺は何も出来ずにただベッドで横になりながらラシオンと戯れているだけであった。
◆◆◆
それから数日が経ち、筋肉痛が治った俺はスレイに乗って競馬場を駆け回っていた。
スレイたちと念話で話せるラシオンも一緒に空を飛んでいる。
そしてプニルはというと……
「ご主人様ッ!これがワタシとの愛の追いかけっこの始まりかしらッ!?」
乙女モンスターの餌食になっていた。
『うしろからままがきてるよ?』
「あれはママではない!」
誰だラシオンに間違った知識を教えたのは!
……俺だな。
「ええ、私がママよッ!」
どうしてこうなった!?
俺は今日スレイたちとラシオンで楽しく乗馬する予定だったのに、いつからデスゲームの追いかけっこに変わったんだ!
「ジ、ジル……!いないのか、ジルヴェスター!」
手綱を握っておけと言ったではないか!
どちらかというと今はマリーが手綱を握っているぞ……プニルのな!
本来モンスターであるプニルの方がマリーに恐縮し始めている。
そうだよな……プニルも女の子だもんな。大胸筋ムキムキの乙女に鞭で叩かれたら怖いよな。
「お、マリーはとうとうプニルから降りるのか?」
完全に脚を止めてしまったプニル。
競馬場で待機しているハンスにプニルを手渡している。
よし、そうだ。それでいい……そのまま帰るんだマリー。
「ご主人様待ってええええッ!」
そう言うや否や追いかけっこは続行中なのかマリーは走って追いかけてきた。
「さすが狂犬のバルマリーク……いや、走っている姿はミノタウロスにしか見えないけどな」
「聞こえてるのよッ!」
こうしてミノタウロスという名のマリーから逃げる追いかけっこはまだまだ続くのだった。




