神罰を受ける2人
「ご主人様、少々よろしいでしょうか」
バレンタインでの悲劇も落ち着いてきた頃、執務室にてセバスに声を掛けられた。
「どうしたセバス。何かあったか?」
「午前中にフィン様とフィア様がプールの近くを通った際、身体がフワフワして眠くなったとシルヴィア様に報告したらしく、一応私のところまで事情の説明に来られました。私がプールの確認をしましたところ、ローレンス様とガンナー様が何やらプールで聖なる祈りの儀式を……」
「あいつら……!!」
俺はセバスの説明を最後まで聞かずに執務室を飛び出してプールに向かった。
久しぶりに走ったことで息も絶え絶えな俺は、入ったプール場の惨状に頭を抱えたくなった。
そこにはプール場独特の塩素の香りではなく、芳醇な日本酒の香り。更には床に散らばった一升瓶。
「大司教様……いや、ローレンス。何をしている」
俺が声を掛けると特に驚く様子もなく平然と答えた。
「おや、領主様。今朝、いつも通りお祈りをしていたところ神からの啓示があったのです」
「……ほう」
一応聞こうじゃないか、その神の啓示とやらを。
「日本酒という名の聖水を浴びれば我々民たちに更なる幸福をもたらすと」
「……その結果がこれか?」
「ええ、私も浴びれるような場所はなく神の啓示を叶えることは難しいと思っていたのですが、ガンナーからここを使用してはどうかと教えてもらったのです」
ガンナーの顔をチラりと見るとドヤ顔しているのだが、全くもっていい仕事をしたわけではないからドヤ顔はやめろ。
「ですので今はその準備をしていたのですが……もしかして神は待ちくたびれたと言っておられるのですか!?それで領主様をこちらに遣わせられたのですね……!」
「いや、苦情が入ってきただけだが」
話している間も手を止めることなくアイテムバックから日本酒を取り出し、プール槽へ注いでいく。
するとなぜかローレンス自身がローブや下着全てを脱ぎ出した。
「お、おい……何して……」
「神よ……!大変お待たせ致しました!貴方様の代わりにこの私、ローレンスが浴びてきたいと思います!」
そう言うや否や俺が止めるのも虚しくローレンスがプールに飛び込んだ。
「あやつ、ちゃんと準備運動しないと危ないと言ってやったのに」
ガンナー、確かに準備運動は大事だが今はそういうことじゃない。
しかも何故か日本酒から少し湯気が出てないか?
「おい、まさかとは思うが魔法で温めて熱燗にしてるわけじゃないよな?」
「いえ……ただ神は冷たいのより温かい方がいいとのことでしたので」
神がそんな細かく指示するかよ。
それにしても……
「ローレンス、お前浴びるだけじゃなくて潜って飲んでいるな」
「ヒック、ただ浴びるほど飲んでみたいと……いえ、これも全て神の思し召しです」
そうか、ローレンスは全て神のせいにするんだな。そうなったら俺にも考えがある。
「とりあえずローレンス、今すぐそこから出て服を着ろ!」
「おや、神の前では皆生まれたままの姿が1番美しいと……」
「全裸のおっさんの美を主張するな!汚いから今すぐに服を着ろ!」
俺はプールサイドに脱ぎ捨てられた露連巣の刺繍入りのローブを丸めてローレンスに投げつけた。
「ラディいるか」
「はっ、ここに」
「すまないが屋敷に戻り、マーサを連れてきてくれ。辺り一帯を浄化する」
「御意」
俺がラディに頼んでる間ローレンスは渋々プールから上がり、服を着始めた。
「いいか、今からお前に神の啓示より恐ろしい現実を叩き込んでやる。そこへ正座しろ」
俺は今まで大司教という役職を聞いて勝手に人々のために尽くし、手本となるそんな人物だと思っていた。
聖なる祈りの儀式と称してガンナーと飲み会をしようが、その飲み会で二日酔いになろうが、住民たちにとったら怪我や病気を治せる大司教がいるだけで心強く頼りになる存在だ。
だからこそ、今まで許してきたのだが……
「ローレンス、神の啓示だか知らないが外にまで匂いが漏れ、子供たちにまで影響が出ている。浄化すれば問題ないなんてことは言うなよ、俺は今まで他の住民たちに支障がないならと大目に見てたただけだ。だがたった今、俺にも神のお告げが届いた」
「おお……!神はやはり我々のことを見てくださっている!」
自分のしていることは間違っていないとでもいうような顔だ。
本当にローレンスには神からのお告げがあるのかもしれないし、ないかもしれない。
それは本人にしかわからないことだが、ここではっきりしておかなければいけない。
「ローレンス、3ヶ月給料はなし。スーパーの酒コーナーもエルの結界にて封鎖。そして、ガンナーは手伝ったことにより1ヶ月ネットオークションの販売と同じく酒も禁止だ」
神と領主、怒らせるとどちらが怖いかということを。
「そ、そんな!神がそのようなことを言うはずがありません!何かの間違いです!」
「わしはこの場所を教えてやっただけじゃ!何もしていない!」
「いや、紛れもない神のご命令だ。背いたら俺の胃がストレスで消滅するという具体的なお告げだった。俺も本当はこんなこと言いたくはないのだが神のお告げだからな、許してくれ」
2人がギャーギャー騒いでいる中、ラディがセバスとマーサを連れてプールまでやって来た。きっとセバスも状況把握のために着いてきたのだろう。
「マーサ、このプール全体と外も出来る範囲で浄化を掛けてくれ」
「かしこまりましたわ」
「マーサ、ご主人様にも浄化を」
セバスが俺にまで浄化をかけるようにマーサに指示をする。
「いや、セバス。俺は酒は飲んでないし汚れてはいないぞ?ツッコミまくって疲れてはいるが」
「おや領主様、私はまだ突っ込まれてはいませんよ?」
「……は?」
「私の穴は未使用ですし、どちらかというと夜の神事では突っ込む側でございます」
聞きたくなかった。間違いなくそっちのツッコミの話ではないし、おっさんの夜の立ち位置の話などドヤ顔で開示するな!
「……マーサ、ローレンスは相当酔っ払っているみたいだ。頭も心も全て浄化しといてくれ」
俺はセバスにスーパーの酒コーナーをエルに封鎖してもらう手配を頼み、屋敷に帰宅したのだった。




