デスゲームまでのカウントダウン
バレンタインとは本来ワクワクするようなイベントだったと記憶していたのだが、俺は何故か酷い目に会い、一瞬命の危機を感じていた。
数日後、来年までにスキルオーブガチャかネットオークションで隠密スキルを手に入れられないか考えていた時、ふと新しく発行された箱庭新聞が目に入る。
『領主様、副団長の愛が重すぎて窒息しかける!?1年かけて夜逃げの計画中!』
おい、計画が全部書かれているぞ!こんなの1年かけて隠密スキル手に入れたとしても全てバレて計画台無しになるじゃないか!
「セバス……お前、主を売ったな!?」
「いえ、子供たちに聞かれたので事実を申し上げたまででございます」
「それを情報漏洩と言うんだ!」
この新聞がマリーの目に入る前に処分しなくては……!
そう思い執務室の扉に手をかけると廊下には新聞を手に持ち、泣きそうなマリーが立っていた。
「マ、マリー……これは違うんだ……!」
「ご主人様……ワタシ新聞を読んで感動しちゃったわッ!」
……この新聞に感動する内容なんて書いてあったか?俺が1年かけてマリーから逃げることが書かれていたんだぞ?
「マリー、これはデマで事実ではないんだ」
「言い訳しなくてもいいのよッ!ワタシとの愛の追いかけっこのために1年も前から準備してくれるなんてッ……そこまでワタシに本気だったのねッ!」
「違う!全然分かっていない!命の危機を感じて逃げようとしているだけだ!」
俺は思わず本音が出てしまうぐらい焦っていた。
ジルよ、きちんと手網を握っておいてくれ。野良のモンスターが屋敷まで侵入しているぞ!
「望むところよ!来年のバレンタインは世界の果てまでワタシのこの鍛え上げられた谷間で追いかけてあげるわッ!」
たった今、来年のバレンタインがデスゲームに進化を遂げた瞬間である。
そして少ししてからジルがやってきてマリーをしっかりと引き連れて行ったんだが……
「ラディ、ジルを呼びに行くのが遅い」
「申し訳ございません」
「それにこの前窒息しかけた時も助けてくれてもよくなかったか?」
「てっきりお戯れかと」
「……寝言は寝てから言ってくれ」
誰が好んで戯れで窒息しかけるんだ。
本当にこの影の護衛はいざという時に助けてくれるのか不安になってくる。
「命の保証は任せてください」
「だからみんなして俺の心を読むな」
ここまでくると俺のわかりやすい顔も逆に凄い。特技と言ってもいいのではないだろうか?
……なんの自慢にもならない特技なんか言いふらすのはやめよう。すぐに箱庭新聞のネタになるだけだ。
そしてここ数日の俺は肉体的にも精神的にも疲れ、本来ならこういう時に可愛いメイドに癒して欲しいのだがいないものはどうしようもない。
もういっそのこと現実世界に求人でも出すべきだろうか?
『高待遇、高時給!社宅完備にフレックス制!メイド募集中!』
……さすがに冗談だが、そうでもしないと俺のところに可愛いメイドは来ない気がしてきた。
まずいな……俺の疲れを癒してくれる人が欲しい、切実に。
競馬場作りや、エリオットの新作魔導具、厨二病シリーズの試作品などどれも俺の決定がなくても進めていいと言ってあるのに、ことある事にみんな俺に意見を求めにやってくる。
商会長補佐のジークとも時々現実世界での取引についての話し合いもあるし、スレイとプニルを連れての散歩にラシオンとの遊び。
あれ……俺意外と忙しくないか?
名ばかりの領主でやることは何もなくただのんびりスローライフをしている予定だったのだが、スローライフはどこにいった?
「忙しすぎて猫の手も借りたい」
いや、ユグドラシルの場合は聖竜の手も借りたいだろうか。
「エリーさんを連れてくればよろしいでしょうか?」
「ラディ、そういうことじゃないんだ」
忘れていたが、ユグドラシルには借りれる猫の手もあったみたいだ。




