(閑話)スタンピード
ユグドラシルで大食い大会が開催されている頃、現実世界の東京では割と大きな混乱が起きていた。
東京の隣、神奈川県横浜市でダンジョンからモンスターが溢れ出るスタンピードの予兆が確認されたからだ。
横浜のギルドマスターから連絡を受け、冒険者ギルドの本部である新宿ダンジョンのギルドマスター剛力毅は高ランク冒険者の援軍を横浜に送ることを決め、各パーティーに連絡を取っていた。
30分ほど経つとギルドの会議室にはチラホラと冒険者パーティーが集まりだし、もちろんその中にはSランクパーティー鳳凰の姿もあった。
1番最初に会議室に到着したAランクパーティー黎明の星は、若手だが剣士に魔法使い、盾役に治癒士とバランスがいいパーティーでとても堅実的だ。
今回Sランクパーティーが3つ呼ばれているのに対して、今後のために経験を積ませる意味で呼ばれたのが黎明の星だった。
Aランクだからこそ稼ぎも他のパーティーに比べれば潤沢で、自分たちの命を預ける武器や防具にはそれなりにお金をかけてきたつもりでいる。
だがその後にやってきた鳳凰のメンバーは狼耳のカチューシャをつけたリーダーに社畜という文字の刺繍入りローブを着ている魔法使い、盾役の男の首には鈴付きチョーカーがつけられているのを見て、この緊急事態の時にふざけているのかと言いたくなった。
だが相手は自分たちより上のSランク、グッと我慢し他のパーティーを待っていると次にやってきたのは5人全員が魔法使いで構成されている星詠の賢者だった。
そんな5人は全員が社畜や魔王、勇者などの刺繍入りローブを着ていて、ここで初めて黎明の星のリーダーである如月湊は自分が知らないだけで何かこの格好には意味があるのかもしれないと思い始めていた。
そして最後にやってきた冒険者パーティー蒼穹の翼は……4人全員がカチューシャと羽根をつけていた。
もはや緊急事態そっちのけで今すぐ装備について詳しく聞きたかったがギルドマスターの入室により如月は踏みとどまった。
「……ここは暴走族の集まりかお遊戯会か?」
入室して一言目にそう呟いたギルドマスターは決して間違いではないだろう。
知らない人がみたらきっと9割は同じことを言う。
「まあいい、その格好の説明を聞くのは全てが終わってからでも出来る。今はすぐ横浜に向かってもらいたい」
ギルドマスターはスタンピードの規模や現在確認されているモンスターの種類、被害状況などを伝えた。
それを真剣に聞いているパーティーの面々は冗談でもお遊戯会だとは言えないような顔つきである。
「それでは頼んだ。必ず全員で生きて帰ってこい」
ギルド所有の大型バスで移動している最中、集まったパーティーの面々はダンジョン内での各パーティーの動きや得意な攻撃の仕方などを話し合う。
如月は話について行くのに必死でやはりまだ自分たちとは程遠い存在なのだと思う一方、学べるところは学ぼうと積極的にわからないことなどを質問していく。
そして話し合いをしているうちに横浜ダンジョンに到着した。
街は少なからず被害が出て住民たちも混乱しているのが見てわかるが、横浜で活動している冒険者たちが必死に溢れ出るモンスターを食い止めているのがわかる。
ダンジョン前にいるギルド職員に本部からの援軍が到着したことを代表して鳳凰リーダーの九条が伝えると、周りからも歓声があがった。
勝てる希望が見えてきたのだろう。
このまま横浜の冒険者たちには外に溢れ出てきたモンスターの対処を任せて、援軍パーティーの面々はダンジョンに入っていった。
それから半日、いや既に1日が経過してきた頃、全員の疲労も溜まりつつはあるが最下層のボス部屋の前に到着していた。
このダンジョンはまだ踏破されたことはなく、ボスが何かは知らされていない。
だが、スタンピードを終わらせるためにはここで撤退するという選択肢はなく、各々気合いを入れ直し全員でボス部屋に入っていった。
◆◆◆
「さすがに死ぬかと思った」
「俺も無理だと思ったね」
「私たち全員生きているのね……」
ボロボロになりながらも全員が無事にボスを倒してスタンピードは終わり、大型バスでギルド本部へ帰っている最中だ。
「まさかとは思ったがやっぱり龍だったな…」
「嫌な予感はしていたのよね」
「龍を見た時全滅を覚悟したが何とか助かった」
ボス部屋で漆黒の龍を見た時、それぞれみんな死を覚悟した。それほどまでに龍とは強く、過去に討伐された記録などを見る限り何十人と被害を出しながらもやっとの思いで討伐されてきた。
それを高ランクパーティーとはいえ、たった16人でなど無理だと誰もが諦めていた。
しかしそんな時、今回の緊急事態で代表を任されている鳳凰のリーダー九条はみんなに聞こえるように告げた。
「俺は今日勝負パンツを履いている。協力すれば勝てる。まだ諦めるな!」
黎明の星だけは何のことかピンときていなかったが、他のパーティーはその言葉を聞き思い出したかのように自分たちも今日は勝負パンツだと言い出した。
そして1人の女性魔法使いが叫んだ。
「今ここで死んだら世間に私が勝負パンツを履いていたことがバレて社会的にも死ぬのよ!」
最初は恥ずかしそうにしていた白石も緊急事態ではそうも言ってられない。堂々と私も勝負パンツよと宣言したところで諦めかけていたみんなの目に勝機が宿り、ボロボロになりながらも無事に倒せたわけだ。
正直今回は勝負パンツがなければ全員での帰還は厳しかっただろう。
各パーティーが改めてユグドラシル商会に感謝している中、何も知らない黎明の星だけは勝負パンツの存在が気になりバスの中で色々と葛藤するのだった。




