初雪
クリスマスの準備も順調に進んでいる中、俺とエルは果樹園に来ていた。
植えてからまだそれ程時間が経っていないのにリンゴが収穫できるようになったとカイザーから連絡がきたからだ。
エルはこの果樹園を大きくした立役者だし俺は一応領主ということで、収穫の手伝いをした後にもぎたてで新鮮なリンゴを試食することになっている。
俺がハサミで丁寧に収穫している横で風魔法を使って収穫し、収穫したリンゴをまとめて宙に浮かせながら運んでいる大賢者がいるのだが…
「羨ましいですね…」
「めちゃくちゃわかる」
カイザーも魔法に憧れた時期があったのだろうか。
その後もエルのおかげでだいぶ早く収穫が終わり、試食をした後屋敷に帰宅した。
アップルパイが作れるパティシエがガチャから出てきてくれれば……無いものねだりというやつか。
◆◆◆
数日後、橋本さんたちが作ってくれていた塀が完成した。
このユグドラシルに雪が降るのかはわからないが、積もったりする前で本当に良かったと思う。
エルはほとんど庭師の源田さんと庭いじりをしていた分、また五十嵐くんが頑張ってくれていた。
俺は今その完成した塀を見ているんだが……
「これぞ領主の屋敷みたいな感じになったな」
今までも屋敷ではあったのだが、周りも見渡せてポツンとただそこに家があるっていう感じでどこか領主の屋敷っぽくはなかった。
それが塀一つでここまで変わるとは。
もはや名ばかりの領主とは言ってられなくなってきた。それはそれで困るんだけどね。
一旦領主というのを忘れて、両親の家に行こう。ただの高梨家の次男として、こんな寒い日には家族で鍋を囲むに限る。
そうしてクリスマスまで残り数日となったある日の朝、このユグドラシルに初めての雪が降り注いだのだった。
東京に住んでいるとたまにしか降らない雪に俺は未だにはしゃぎたくなるのだが、やはり俺はまだ赤子か雛なのだろうか。
日本人からしてみれば見慣れた雪だが獣人の国では全く降らないらしく公園でフィンとフィアがうっすら積もった雪に寝転がって遊んでいた。
もう少し積もればみんなで雪合戦なんかも楽しいのだろうがさすがに今は少なすぎて難しい。
そのうちエルかエリオットあたりが雪を降らせる魔法や魔導具を開発してくれないか?
……いや、雪はあったらあったで邪魔になるからいらないな。スキーやスノボはしてみたいが、無理ならスケートでもいい。
「エルならスケート場ぐらい作れそうじゃないか?」
それよりもガチャでいつかスケート場を出す方が早いかもしれないが。
俺はそんなことを考えながら世界樹の元へやって来た。初雪が少し積もった世界樹がとても綺麗に見える。
そして初雪でやることといえば雪だるま作りだろう。世界樹の近くに小さな雪だるまをたくさん作って飾り付けでもしておこう。
「あれ、こんなところで何やってるんですか?」
この寒い朝に走っていたのか少し汗をかいている五十嵐くんが声を掛けてきた。
「せっかくの初雪だからな、小さな雪だるまを作っているんだ。もしかしたら精霊も喜んでくれるかもしれないだろ?」
「いいですね!俺も一緒に作っていいですか?」
「もちろん。せっかくだから飾り付けもしようか」
それから俺たちは作った雪だるまに世界樹の木の枝で手にしてみたり、安藤さんから貰ってきた野菜くずで目や鼻を付けていった。
雪だるまに世界樹の木の枝が使われてるなんて現実世界の人たちが知ったら雪合戦ならぬ雪だるま戦争になることだろう。
誰にもバレないようにすれば全てよし。
何事も物の価値より楽しむことが大事。今決めたこのユグドラシルでのルールだ。
だけどどうせなら可愛い彼女と雪だるまを作りたかったな……
隣には五十嵐くんがいるが、ここにいるのが可愛い彼女だったら。
「雪だるま綺麗に出来ましたね!」
「君の方が綺麗だよ」
「何を……寒さにやられました?」
「来年、彼女と来た時の予行練習だ」
全く、冗談に決まってるじゃないか。
五十嵐くんも来年は俺とじゃなくて好きな人と来られるといいんだが。
俺は来年こそ可愛い彼女と初雪が見られますようにと世界樹に願わずにはいられなかった。




