救える命
無事と言っていいのかはわからないが無事に鳳凰と初めての面会が終わり、俺とアスは外を歩いていた。
すぐ箱庭に帰れれば良かったんだが夜とはいえ東京はどこにでも人がいて中々扉が開ける場所が見つからず、それなら散歩がてら歩いて1時間ぐらいの距離だから歩いて帰ろうということになった。
「それにしても日本というのはすごいのだな、見上げてしまうような建物ばかりだぞ」
「そうだね、俺は東京出身だから見慣れているけど時々田舎が良かったなって思う時もあるよ」
そうやってアスと2人で話しながら歩いていると、ふと公園に座っているおじさんが目に入った。
「春樹、あれは危ない」
「え、怪しい人なのか?」
俺にはとてもそうは見えないが、それよりどこか既視感があるような……
「いや、ああいう顔をした者は今まで何度も見たことがある。大抵が自ら命を落とす前だ」
「っ……!アスごめん、ちょっと話しかけてくる!」
「仕方あるまい、なんだかんだ春樹はお人好しだからな」
こんな夜に急に男2人組に話しかけられたらびっくりするし怪しさもあるだろう、それでも俺は話しかけずにはいられなかった。
「おじさん、大丈夫?」
「っ……君たちは……」
「ごめん、男2人で怪しいよね。でもおじさんがすごい思い詰めた顔をしているのが気になっちゃって。よければ話ぐらい聞くよ?」
「若い子に心配されるなんて、本当だめだね僕も……」
「我の方が年上だぞ」
アスは余計なこと言わない!油断するとすぐこれだ。
「今日も仕事だったのに朝家を出たらなぜか職場に向かう足がどうしても進まなくなっちゃってね、気付いたらこの公園に来ていたんだ。無断で休むなんて職場にも迷惑かけてどうしようもないよね」
詳しく話を聞くと中学校の教師をしているという福田さん。
平日は毎日授業が終わるとバスケ部の顧問として指導をし、部活が終わると次の日の授業の準備やテスト作り、保護者の対応や他の教師の手伝いまでしていると言う。
土日も部活で長期休みの時は遠征や試合の付き添いなどで自分の休みは全くないらしい。
どこか既視感があると思ったら俺がブラック企業で働いていた時は毎日こんな風に思い詰めた顔をしていたな……
「それでも子供たちが好きでね、少しでも子供たちの将来のためにと思って今まで頑張ってきたつもりだったんだけどね」
どうやら福田さんが手伝ってあげていた教師が、自分は新婚なんだから遅くまで残業なんてやりたくない。こんな雑用は独身の福田さんに全て任せておけばいいと他の教師に話しているのを聞いてしまったらしい。
もちろん先生全員がその人みたいにクズではない。いい学校もあれば働き方も人それぞれ。でも福田さんは運悪く限界まで追い詰められてしまったみたいだ。
「福田さん、今の学校に未練はありますか?」
「え、未練……?クラスの子やバスケ部の子たちは気にはなるけど正直、教師を辞めて死のうかと思ってたんだ」
「っ……。無理にとは言いません、今すぐとも言いません。少し休んでから小さい子に文字の読み書きなどを教えてもらえませんか」
「僕が……?小さいって言っても小学校に行けば文字の読み書きは教わるよね?」
それから俺のスキル箱庭での生活、日本の学校には通えない獣人の子供や従僕見習いがいることを説明した。
「人間じゃないと嫌とかそういう差別がないのであればお願いしたいのですがどうでしょう。今の家から通いがよければ毎日迎えに行きますし、箱庭に住んでくださるなら住むところやお給料もきちんと払います」
「残業……や顧問は?」
「ありません。子供の人数も今のところ3人しかいません」
「っ、僕にもう一度子供たちに教えるチャンスをくれてありが、とう。是非子供たちに関わらさせて欲しいです…!」
それから今日は1度箱庭のホテルに泊まり、明日落ち着いてから学校に退職の連絡をすることになった。福田さんの顔はさっきまでとは違い、明るいものに変わっていて俺たちも声をかけてよかったと思えた瞬間だった。
「アス、この公園の周りに人の気配は?」
「うむ、そうだな……いや今は誰もいない」
俺は急いで扉を出し、福田さんを承認して箱庭の中へ案内した。
「すごい……これが箱庭スキル」
「今は暗くて見えにくいと思うのでまた明日にでも案内しますね、今日はゆっくり休んでください」
そうしてホテルまで案内したが、福田さんの夕食のことをすっかり忘れていた俺はスーパーまで走ったのだった。




