交渉
「ここが春樹の育った日本というところなのか」
あれから1週間後、俺たちはSランクパーティー鳳凰と会うために現実世界に来ていた。
悪魔のアスと吸血鬼のラディは闇属性の隠蔽で普通の人間に見えるようにしてあるから問題はない。
俺は元々東京の中野に住んでいて、今回会うのは新宿の高級レストランだ。鳳凰が予約してくれたらしく、俺とアスで向かいラディは影からの護衛だ。きっとどこかにいるんだろう。
「いらっしゃいませ」
「待ち合わせをしている、高梨です」
すでに鳳凰のメンバーは揃っているらしく俺たちは案内された。
「失礼します」
「初めまして、本日は来て頂きありがとうございます。鳳凰のリーダー九条光一です。こちらはメンバーの黒瀬と白石です」
3人ともぺこりと頭を下げて挨拶をした。
「こちらこそ本日はこのような機会を頂きありがとうございます。ユグドラシル商会代表の高梨春樹です。隣にいるのは秘書兼護衛のアスタリオンです」
アスはぺこりともしなかった。大丈夫だろうか……アスを秘書役として連れてきたことにすでに不安になってきた。
全員立ったままでは会話が進まないのでとりあえず着席し飲み物を注文した。
……なぜ君は今から大事な話が始まりそうなこの雰囲気でジュースを頼めたんだ……やはり不安だ。
それよりも先程からリーダーの九条が何て言って話を切り出せばいいのか迷っているのかボソボソと呟いている。
「我々は大体そちらの事情を把握している。概ねポーションの優遇や武器、魔導具の購入についてだろう。それと我々はまだ出来たばかりの商会で偉くはないのでな、敬語なども不要だ」
そう言うアスが1番偉そうな態度だが、急なアスからの申し出に鳳凰の面々がポカンとしている。だが、これはチャンスとばかりに九条が話し始めた。
「助かる、冒険者なんて敬語を使う機会がなくて苦手なんだ。それにやはり俺たちの考えてることもわかっていたんだな」
「ああ、それでも我らにとっても利益が出る話だと思って今回は応じたのだ」
俺は空気、俺は空気。全て秘書に任せておけばなんとかなる。
「……春樹。聞いているのか?」
「え?」
「全く。眠くなったのか?昼寝でもするか?」
そこまで子供じゃないだろ……
「いや、すまん。ちゃんと聞いてるよ」
「ではこれで決まりで良いか?」
結局前もって連絡で注文を受け、ポーションや魔導具、武器などを定価で購入するのを許可する代わりに俺たちも欲しい素材などは優先的に定価で購入出来るということで決まった。
「それじゃあ話は終わったしついでにここで食事していかないか?もちろん支払いはこちらが持つ」
「む、それはいいな。春樹食べていってもいいか?」
「そうだな、アスは普段何食べてるのか知らないけど、きっとここの料理は美味いぞ。俺もセバスに今日の夕食はいらないと連絡しておくよ」
俺はメッセージアプリでセバスに夕食を食べて帰ることを伝えておいた。
「春樹これは美味いぞ!これは安藤に言えば作ってもらえるのか?」
「どうだろう、でも安藤さんも元一流ホテルのシェフだったし作れるんじゃないかな」
「それはいいことを聞いた!帰ったら頼んでみよう」
「そういえばアスタリオンさんって名前は外人さんぽいのに見た目は日本人みたいですね。ハーフとかですか?」
しまった、そういえば隠蔽で日本人に見えるようにしていたが名前は思いっきり外人ではないか。どうせなら名前を変えるか、見た目を外人っぽくしておけばよかった。
「む、春樹。アスタリオンという名前は日本人では珍しいのか?」
「ああ、まあ……いないだろうな」
「そうか、それは失敗したな。でもまあ、こやつらに敵意や悪意は感じないし伝えてもいいような気もするがな」
「……?」
何が何だかさっぱりわかっていない鳳凰のメンバーはみんな首を傾げているが、伝えて今後の対応が変わるようなら付き合い方を変えればいいかな。人間以外ありえないとか差別するようなら俺らは箱庭から出ないだけだしな。
「あーっと、そうだな。アスは日本人じゃないというか人間じゃないんだよ」
「……え?人間、じゃない?」
「うむ、我悪魔ぞ!」
「っ、はは。俺、普段酔わないのに酔ったのかな?悪魔って聞こえたみたいだ」
「いやでも、ネットオークションにはドワーフが作った武器やハイエルフが作った武器が販売されていたっていうことは悪魔がいてもおかしくはない、のか?」
困惑はしているようだが段々と落ち着きを取り戻してきて納得し始めたみたいだ。
さすがSランクパーティー、環境に順応するのが早い。
これは元魔王軍幹部だっていうことは言わない方が良さそうだ、もっと混乱させることだろう。
「ちなみに元魔王軍幹部だ」
こいつはどうして空気が読めないかな!?
せっかく落ち着いてきていたのにまたみんなポカンとしちゃったじゃないか!
ああ、本当に不安だ。これからも秘書役はアスでいいのだろうか……




