(閑話)噂
都内の高級レストラン個室にて。
「……おい、これみたか?」
黒髪でがっちりとした体格、子供が見たら泣きそうな厳つい顔だが本当は可愛いものや子供が大好きなSランクパーティー【鳳凰】のリーダー九条光一が、タンク兼拳士の黒瀬誠司と魔法使いの白石美月にネットオークションの画面を見せていた。
「ああ、高いからまだそれほど入札はされていないが他の高ランクパーティーの奴らも気付いているぞ」
「それにしてもこの……ユグドラシル商会?って聞いたことあったかしら」
「いいや、初めて聞いた。最近出来たばかりだろうが、このミスリルの剣…本物だぞ」
九条が今使っている剣もミスリルが使われているが、それでも他の鉱石と混ぜて作られている剣だ。ミスリルは貴重で、高ランクダンジョンの深層で稀に見つかったり、宝箱から少量の鉱石が手に入る程度なのだ。
「それなのにこの剣、丸々1本ミスリルで出来ている……ありえない。ありえないんだが俺の直感スキルが本物だと言っている」
「そもそもミスリルの剣もだけど、他に出品されている商品もありえないわよ」
「俺たちがダンジョンで手に入れた遅延機能付きのアイテムバック中ですら滅多に出ないアイテムで、これのおかげでSランクにまでなれたと言っても過言ではない。だが、完全に時間停止で大となると……」
いったいいくらなら落札できるだろうかと考え始める鳳凰。
「とりあえず俺たちもSランクで高ランクダンジョンに潜ることも多い、この上級ポーションは手に入れるべきだろうな」
「ええ、作れる人がいなくて中々手に入らないものね……ちょっと待って、これ無味って書いてあるわよ?」
「っ……それが本当ならこのユグドラシル商会は神かなんかなのか…」
彼らもこれまで簡単な冒険ばかりではなく、幾度となく怪我や死にそうになったことがある。その度にあの苦いポーションを飲んで顔を歪めてきたのだ。命には変えられないと思い仕方なく飲んではいたが、あの苦味がないだけでどれだけ救われることか。
「きっと他のAやSランクパーティーも目を光らせているでしょうね…」
「あっ、ミスリルの剣が5000万になった」
「アイテムバック大なんて今1億5000万よ。それでも持ち運べる量と鮮度がいいならすぐに元は取れそうよね…」
鳳凰のメンバーはため息しかでない。
Sランクパーティーでそれなりに貯金はあるが、初めて見る商会にどこまで賭けていいものか、と。
「しかもこの商会、ジャージとパーカーを出品しているんだが……79800円で」
「はっ!?なんでジャージがそんなに高いのよ!」
「……浄化と自動修復機能が付与されているんだとよ」
「なによそれ……確かにすごいわ。浄化も自動修復も冒険者ならどちらも欲しい機能よ、だけどなぜジャージなのよ!もっと鎧とかローブとかに付けてくれたら!」
苦虫を噛み潰したような顔をする白石だが、彼らは知らないのだ。箱庭でハイエルフと悪魔がジャージを着始めたことによって他の住民にまでジャージが人気になったこと、浄化と自動修復機能だけで森林エリアにモンスターを狩りに行っている獣人がいることを。
元々ジャージを知らない異世界人たちがジャージにハマったら、それはもちろん売り出すのもジャージからと決まっている。
そして第2弾としてローブに漢字の刺繍入りが販売されようとしていることを。
「武器や、個人で欲しいものは各々自分で。ポーションやアイテムバックは共有財産からの入札でいいか?」
「ええ、このチャンスを逃す手はないわ」
残り2日。彼らは毎日画面を見つめながら手に入れようと必死になっていた。
「……会ってみたいな、ユグドラシル商会」




