夏祭り
あっという間に夏祭り当日、午前中から俺たちは最終準備に取りかかっていた。
そして俺は数日前、兄貴に連絡して今日の夏祭りに紗季さんと無事に産まれた茜ちゃんを連れて遊びにこないかと誘っておいた。
茜ちゃんはまだ小さくて大変だがここにはマーサや子育て経験のあるシルヴィア、1000年も生きている大賢者がいる、みんなが手助けしてくれると言った。ありがたいことだ。
「兄貴、紗季さんいらっしゃい。そして出産お疲れ様でした」
「誘ってくれてありがとう春樹」
「春樹くんありがとうね、そして碧のことも助かったわ」
時間になり紗季さんと茜ちゃんを承認してユグドラシルへ案内した。
おっと、住民が20人になったからレベルアップしたみたいだ、確認はまた後でにしておこう。
「覚醒者になったって聞いてはいたけどこれは凄いわね……」
「前に来た時より随分と発展したんだな」
3人を案内していると俺たちに気付いた碧が走って駆け寄ってきた。
「お父さん!お母さん!それに……赤ちゃん!」
初めての妹という存在に感動しているのか目をウルウルさせている。
「あのね!僕、毎日剣の練習もしてフィンくんとフィアちゃんと友達にもなって、エリオットさんとも毎日……あっ、なんでもない!」
「ふふ、話したいことがたくさんあるのね。あとでまたゆっくり聞かせてちょうだい?」
「うん!僕今エル様のお手伝いしているからまた後でね!」
すっかりお兄ちゃんらしくエルのところへ手伝いに走って行ってしまった。
「あの碧がお手伝い、か。1ヶ月見ないだけでここまで成長するんだな」
なぜか兄貴も泣きそうになっている。
これから楽しい夏祭りが始まるっていうのに。
「よし、それじゃあそろそろ夏祭り会場へ行こうか」
夕方、俺たちは世界樹がある夏祭り会場へ向かった。
「ご主人様、準備が完了致しました。夏祭り開始の合図をお願いいたします」
え、合図?そんなの急に言われても……周りを見渡すとみんな期待した眼差しで俺を見ている。
よし、ここは領主としてビシッと決めねば。
「え〜、みなさん短い時間の中で準備お疲れ様でした。このユグドラシルができて2ヶ月、いい従者や住民たちに恵まれ……」
「ご主人様長いです」
せっかく俺がこのユグドラシルが出来てきた過程を話そうと思ったのに、仕方ない。
「ユグドラシル初めての夏祭り開始だー!」
「「「おおおおおおお!」」」
ガンナーが作ってくれた屋台には出来たての料理が並んでいる。前もって作ってあったやつはヴァルグに預けているアイテムリングに入れておいたのだ。
みんな食べる側だから料理を取るのはセルフだが、これもまた楽しくていいだろう。
子供たちも唐揚げや焼きとうもろこしを頬張りながら楽しそうな顔をしている。
「やっぱり開催してよかったな……」
「ええ、やはり夏祭りというのは子供たちが楽しむのが1番ですからね」
「あ、田中さん。そうですね、日本人ならやはりこういうのは定期的にやって行きたいですね。人数がどんなに増えても」
このユグドラシルで少ない日本人の俺たちはやはりこういうイベントは大事だよな、とお酒を飲みながら話し合った。
そういえばお酒の屋台の前で陣取っている2人がいるんだが……
「ガンナーは知ってたけど、大司教様……あなたは飲んでもいいのですか?」
そこにはすでに酔っていそうな大司教様とまだまだ平気な顔のガンナーがいた。
「これも大事な聖なる祈りの儀式ですよ」
「……何言ってるんですか?」
実はめちゃくちゃ酒好きのおっさんだった。ガンナーは飲み相手が出来て嬉しいのかずっとニヤニヤしているが、ドワーフのおっさんのにやけ顔なんてちっとも嬉しくない。
「はっ!日本酒を私の家で保管しなさいと神の思し召しが!」
神様は絶対そんな事言わないよ。
これから頻繁に聖なる祈りの儀式と称してガンナーとの飲み会が開かれる未来が見えたのは気のせいか?
ここはよくない、みんなのところに戻ろう。
「フィン!勢いよく叩きすぎてスイカが木っ端微塵じゃない!」
スイカ割りをしていた子供たちだがどうやら力加減間違えて粉々になったらしい。
3歳児恐るべし。
元受付嬢のアリアナは田中さんとなんかいい雰囲気で飲んでいるし、エルもエリオットやジルと楽しそうにしている。ヴァルグ一家もみんなでワイワイして、兄貴たちもセバスやマーサ、アルトたちと楽しそうに食べたり輪投げや射的をしている。ハンスだけ何か深刻そうな顔をしながら唐揚げを食べていた。
「ハンスどうした?楽しくなかったか?」
「え……?あ、ご主人様。いや、すごく楽しいですよ。楽しいのですが……」
なんだろう、重い話だろうか。体調が悪いとかは聞かないし、実は屋敷で働きたくないとかかもしれない。俺も働きたくないからその気持ちはわかるが…
「すごく楽しくてずっとこのまま続けばいいなって、そしてこのままずっとユグドラシルで過ごせることに嬉しく感じていたんです。だけど……」
「……だけど?」
「俺はここで恋愛をして結婚が出来るのでしょうか」
思ったよりも深刻な悩みだった。




