第9話・妹が復活した
「お兄ちゃん、お兄ちゃん――」
そんな声と共に体が揺れて目が覚めた。
「うぁ?」
地震か?
目の前にベッドから体を起こしたミウがいる。
(痛てて……)
体のあちこちが痛い。
どうやら変な態勢で寝たようだ。
目覚まし時計に目をやるも朝6時過ぎという微妙な時間帯。
起きようと思えば起きれるが、二度寝したら8時か9時になるだろう。
「ごめんね。ちょっとトイレに行きたいから手を放し――」
「ああうん。わかった。トイレな」
握ってた手を放し、体を起こしていたミウの背中に手を回しつつも膝の裏にも手を入れて一気に抱き上げた。
「わわっ。お、お兄ちゃん?」
「ちょっと待っててな。今運ぶから――」
それからトイレの便座の上でミウを下ろす。
あとは自分でできるそうだったので、トイレから出てドアの前でぼーっとしながら少し待つと、ドアがゆっくりと開いた。
「終わったのか?」
「う、うん」
なんか恐る恐ると言った感じで頷いた。
「わかった。手は洗った?」
「う、うん」
「じゃあ運ぶからね?」
ちょっと困惑していたような気もするが、ミウをお姫様抱っこして部屋に運んでベッドの上に座らせた。
「それでお腹空いてないか? お水は? スポーツドリンクとかもあるよ?」
「お、お兄ちゃん。あのね。ミウは大丈夫だよ? じ、自分でできるから」
なんか顔を赤くしていたミウがいた。
「本当に?」
「う、うん。ほ、ほらコップだって取れるし。ちゃんと座れてるでしょ? 足も上がるよ?」
座ったままではあるが足を上げるミウ。
どうやらそこまで回復していたらしい。
思わずミウを抱きしめる。
女の子特有の何とも言えない匂いがする。
細くて柔らかい。
でも、ちょっと落ち着く。
「お、お兄ちゃん?」
「回復したんだね?」
ミウから離れてからその顔を見ると顔が赤かった。
「う、うん。ごめんね、その、色々と迷惑かけちゃって……」
「いや、15年も昏睡状態だった俺の方が迷惑をかけただろ? それに比べたら安いものだよ。本当に大丈夫なんだね?」
「う、うん」
「念のため、飲み物とかはここに置いておくから」
それからミウの部屋に持ち込んだ毛布などを畳む。
「あ、うん。ありがとね?」
「別にいいさ。それよりも朝食は何がいい? 簡単なものだけどリクエストがあれば、お兄ちゃんが作るぞ?」
「あー、ごめん。お兄ちゃん。ミウ、朝はあんまり食べられないからパンだけでいいよ?」
「えっ、そうなの?」
思わずミウを見る。
女性は食が細いと聞いていたが改めてパンだけと言われるとびっくりする。
「うん」
「じゃあ、目玉焼きとかスクランブルエッグとかも要らない?」
「う、うん」
「そ、そうか。わかった」
食パンって冷蔵庫にあったかな?
もしかしたら冷凍庫に入っているかもしれない。
そんなことを考えながらキッチンへと向かった。
――
ミウが歩けるようになったので、ミウが搬送された病院に連絡する。
それから色々と相談してみたのだが、搬送先の病院で再検査してもらえることになった。
そして、病院で検査してもらうものの、特に異常なし。
担当したお医者さんの話だと「機能性神経症状障害は完治したと思ってもらっていい」とのこと。
今日は検査にどれくらいの時間がかかるかわからなかったので、中学校の方はお休みしてもらったし、弁護士さんの方にも連絡を入れておいた。
これなら、明日から復帰しても問題ないだろう。
「お、お兄ちゃん? 大丈夫だよ、そんなに心配しなくても……」
病院から自宅に戻った後もちょっと心配だった。
階段とか段差を歩くところを後ろから見ていたら、恥ずかしそうにミウから声をかけられた。
「そうか?」
「お兄ちゃん心配しすぎ」
「わかった。明日から学校に復帰するわけだから準備とか忘れないようにな?」
「うん」
それからたまっていた家事を片付ける。
夕食は出前の寿司にした。
家に帰ってからパソコンで調べたら、出前をやっている評判の良いお寿司屋さんを見つけたので注文した。
ちょっと高めではあったが、ミウの快気祝いでもある。
だから少し奮発した。
寿司の出前自体が前世を含めても数えるほどしかしてなかったというのもあるが、今の時代は容器が選べるらしい。
これも時代というやつなのだろうか?
俺が子供だったころは寿司桶しかなかった気がする。
母親が「返さないといけないから」と寿司桶をキッチンで洗っていたのをかすかに覚えている。
通常の寿司桶とは違って、洗って返す手間がない使い捨ての容器を選んでみたのだが。
これはこれでうーん。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「ちょっといいお寿司だったんだけど、なんかスーパーで売っているやつを買ってきた感じになっちゃったからさ。思ったよりも高級感がなくて。ごめん。容器選びでミスったかも」
前世の母親だったら絶対に指摘されるやつだこれ。
そういうのが嫌になったから家を出ることになったが、まさか異世界転生してまで似たような失敗をするとは思わなかった。
まあ、中身は同じだから仕方ないとも言えるけど。
「そう? ミウ、そこまで気にしないからいいよ? これだって普通においしそうじゃん?」
「それはそうだけど……」
幸いなことはミウがそこまで気にしていないということだろう。
こういう細かいやつが積み重なって、最終的には離婚になるというか、ミウに嫌われるかもしれない。
血の気が引く。
「お、お兄ちゃん? そこまで気にしてないから大丈夫だよ?」
「そ、そう?」
表情が顔に出てたのかミウに心配された。
どうやら気を使わせてしまったみたいだ。
せっかくのお祝いなのにそれを駄目にしてしまうとは。
あー、失敗した。
「駄目なお兄ちゃんでごめんな?」
ミウの頭を撫でると、ミウの顔がちょっと赤くなった。
「だからお兄ちゃん大丈夫だって。それより早く食べよ?」
「あ、ああ。そうだな」
注文してしまったものは仕方ない。
ついでに用意してたシャンパン風密栓炭酸飲料で乾杯してから一緒に食べる。
「あ、これおいしいよ? お兄ちゃん」
「そうだな。さすがは板前さんが作ったやつだね」
ミウと同じように最初にマグロを食べてみたが、濃厚な赤身の旨味が口いっぱいに広がった。
シャリも冷たくないし。
お酢がちょっと強めに感じるものの、マグロの味に負けないようにするためだろう。
いい感じだ。
さすがはプロ。
お寿司が普通においしかったことで、容器選びに失敗したことは特に気にならなくなった。
ちょっと豪華な夕食を終えた後は、それぞれ自分の部屋に戻る。
ミウが回復した以上、ミウの部屋に長居するわけにはいかないだろう。
いくら血のつながった兄妹とはいえ、相手は思春期の異性だしね。
俺も1人の時間は欲しい。




