第8話・兄としての本音
「あ、お兄ちゃん。今日の家事終わったの?」
ミウの部屋に戻ると彼女から声をかけられた。
「ああ。それでどうかしたか?」
ベッドの脇に置いていた椅子に腰を下ろす。
つい数日前までは立場が逆だったけど。
「なんか寝てばかりだから目がさえちゃって。だから、お兄ちゃんとお話したいんだけどいいかな?」
ミウはそう言いながら弄っていた携帯電話をサイドテーブルの上にそっと置いた。
「お話?」
「うん。ずっとお兄ちゃんと話してみたかったから……」
「そうか。なら何でも聞くといい――と言いたいところなんだが、こっちも目覚めたばかりだから何を話せばいいのかわからないんだよね……」
前世の話ならできるが、それを話していいのかちょっと迷う。
イザナミ様は特に何にも言ってなかったけど。
「あ、そっか。うーんと、じゃあね……」
それから何かを考えるミウであったが、少したっても言葉が出てこなかった。
「どうしたんだ?」
「ごめん。よく考えてみたら何を話せばいいのかわからなくなっちゃった」
えへへと言わんばかりにはにかむミウ。
表情に変化が多くなってきた気がするがその様子からこれが素なのだろう。
かわいい。
ぽんぽんっと頭に手を置くと、ミウが気持ちよさそうに目を細めた。
「そっか」
ならここは俺がリードしないと駄目なのだろう。
前世の話は、話のネタが無くなってしまったらでいいかな?
女の子が好きそうな話題を考える。
「じゃあ、逆にこっちから質問するっていうのはいい?」
「え? う、うん。それならいいよ?」
「そうだな。ミウって彼氏とかいたりする?」
「えっ? いないけど。どうして?」
「いや。もしもいるなら、ミウが倒れたって話を彼氏とかにもしておかないといけないかな?と思って……」
今になって思い出したがこれで彼氏がいたらちょっとショックだ。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私にはそんな人いないから」
「そう? こんなにかわいいのに……」
実の妹ながらかわいいと思ってしまうのは、きっと俺が異世界転生者だからなのだろう。
「そ、そのね。告白されたことは何度かあるけど、特定の人と付き合いたいって思ったことはなかったかな? それにお兄ちゃんのこともあったし」
「え? 俺?」
「うん。だって寝たきりだったからお見舞いとかあったし……」
「あー、ごめん。やっぱりそういうところで迷惑をかけちゃってた?」
当時は障害者と言う扱いであった。
だから、交際するということは将来的に身内にそういう人を抱えるということでもある。
これを嫌がる人というのは多いだろう。
前世の話ではあるが、本人同士が良くても相手の両親が嫌がって破談になったとか、彼女のきょうだいにダウン症の人がいるから交際自体を諦めたという話を聞いたことがある。
「あ、うん。そこまでのことじゃないよ? お兄ちゃんのお見舞いに行った帰りに家族で食事に行ったり買い物に行ったりしてたから」
「そう? 嫌とかじゃなかった?」
「うーん。私はそんなこと考えたことはなかったけど、人によっては嫌がるのかな? 私たちと同じように家族でお見舞いに来てた子が嫌がって来なくなったとか、習い事で来れなくなったっていう話なら、看護師さんから聞いたことがあるけど……」
「そっか。ミウは優しいんだね?」
それを知っている中でわざわざお見舞いに来ていたのだからきっとミウは優しい子なのだろう。
「そうなのかなぁ? じゃあ、逆に私が寝たきりだったらお兄ちゃんはどうするの?」
「そうだな。仮にミウが寝たきりだったら週に1回というほどではないけど、定期的にはお見舞いに行くかな?」
「だったらお兄ちゃんも十分優しいと思うよ?」
「そうか? 俺の場合はミウがかわいいから下心で行くだけだぞ?」
「か、かわいいってお兄ちゃん? かわいくなかったら行かないってこと?」
「うん」
はっきりと言い切る。
ミウがかわいいから、今もこうして話をしているわけだ。
かわいくなければこうやって話をすることはもちろん、トイレや食事の世話なんてしない。
下手すれば、ネグレクトする親と同じように放置しているだろう。
「それと、さっきからかわいいかわいいって言っているけど、ミウはお兄ちゃんと血のつながった妹なんだからね? そういうのは駄目だと思うよ?」
「そうなのか?」
「そうだよ。いくらきょうだいで結婚ができるからって、普通はきょうだいで結婚しないものなんだよ?」
「へー……」
ミウが寝ているときに両親のパソコンで調べたから知っている。
どうも、この世界では遺伝性疾患のリスクがないらしいので、近親婚が認められていた。
それに、前世とは違ってこの世界には神様が明確に存在するというのもある。
その中で一部の神様たちが兄弟姉妹婚しており、前世とは違って夫婦仲が悪いとか、嫉妬深くてトラブルになるということもないのだ。
ほかに、有名なところだとハプスブルク家だろう。
政治的な事情から今でも近親相姦を繰り返し、それで問題が起きなかったことから彼らの存在によって、遺伝的な安全が証明されているとのこと。
ただ、それでもあごがしゃくれている人はいて回復魔法で治療したらしいけど。
あとは、離島やへき地などに住む人たちの間でも血が濃くなっても問題はないため、この世界の人口は180億人を超えている。
前世では80億ぐらいだと思ったので倍以上はいる計算だ。
ちなみに、動植物の間でも近親交配による問題が起きないことから、種の保存がしやすく絶滅しにくいものの、多頭飼育崩壊が起きやすかったり、特定外来生物などが爆発的に繁殖してしまうという問題もあるらしい。
ミウの反応からは、法的には認められているけど実際にする人は少ないというのが一般的な常識なのだろう。
「でも、俺としては、目覚めたら自分好みの美少女が妹になってたって感じだからなぁ……」
一目惚れというほどの衝撃はなかった。
けど、涙と鼻水で顔が大変になってても「この子かわいい」と思えたのだ。
だからこそ、ミウと一緒に住むことを決めて、色々とお世話した。
下心しかないけど。
かわいい俺の妹だ。
「も、もう。お兄ちゃんってば。そんな変なことばかり言って……」
呆れたように言葉を返してくるが、頬はちょっと赤かった。
「まあ、もしも彼氏がいたら彼氏に丸投げしたんだけどな」
「丸投げって。やっぱり嫌だった?」
「あー、ごめん。そういう意味じゃなくて。俺も男だからさ。彼氏がいる女の世話はしたくないだけだ。逆に彼氏がいないのなら問題ない」
ミウが悲しそうに顔を曇らせたので、慌てて否定する。
この際だから、ここだけははっきりさせておこう。
「そ、そうなんだ……」
「将来結婚する気がなかったとしても彼氏は彼氏だからね。そういうところはちゃんとやらないといけないというか、それが彼氏の義務だと思ってる」
「へ、へー。そうなんだ……」
なんかミウが目を丸くしていたが、何か変なことでも言っただろうか?




