第87話・私だって甘えたいときぐらいはあります
「大丈夫ミウ?」
スプーンですくったミューズリーを抱っこしたミウに食べさせる。
「んー、駄目かも」
「ごめん。ちょっと激し過ぎた?」
昨日の夜はちょっと盛り上がり過ぎちゃったんだよね。
チアガールの後はブルマを着てもらったし、一緒にお風呂に入るときはスクール水着だった。
その写真も撮ったよ?
永遠がいないから、ちょっと遠慮せずにしちゃったけど。
「うん。おにーちゃんがタフなのが悪いぃ~」
「ごめんごめん。今日が平日だってわかってたんだけど、ミウがあまりにもかわいいから理性飛んじゃって……」
避妊魔法もあるし、ミウもノリノリだったから、つい夜更かししてしまったのだ。
と言っても0時前には寝たけど。
おかげで今日はお互いに寝不足気味。
一応、ミウの体にヒールをかけてあるから大丈夫だとは思うけど。
「それでお兄ちゃん。永遠お姉ちゃんは今日の午後に帰ってくるんだよね?」
「ああ。そうだな」
何事もなければ帰ってくるはず。
携帯に着信とかもないから問題ないはず。
そもそも永遠が自宅に帰るのは今回が初めてではない。
最近はずっとうちで過ごしていたから、ちょっと寂しく感じいるだけだ。
一応、自衛用のマジックアイテムなら永遠も身に着けているから、きっと俺が気にしすぎなのだろう。
「心配、お兄ちゃん?」
俺の表情を読むようにミウが声をかけてきた。
「ああごめん。顔に出てたか?」
「うん。永遠お姉ちゃん、お兄ちゃんに愛されてるね? もしも永遠お姉ちゃんがミウだったらお兄ちゃんは心配する?」
「とても心配する。そもそもミウだったら、1人で帰らせないで一緒に泊まる」
「お兄ちゃん過保護過ぎー」
「そうか? 独占欲が強すぎるだけだよ」
ついでにミウの頭にちゅっとキスをしておく。
「そ、それ違くない? 本当に独占欲が強い人なら、そもそも家に帰さないと思うよ?」
「そう?」
そんなやり取りをしていると登校する時間となったので、仲良く手をつないで学校へと向かった。
――
探索者高校のダンジョンはいつも通り。
【王子ダンジョン】の【王子将軍】を倒したからと言って、そこが楽になるわけではない。
以前に比べると、だいぶ楽になったとは感じるけど。
今日は寝不足という事情もあり、探索は控えめとなった。
無理は禁物だ。
その代わりに、ダンジョン内で野営の練習をしたというか、壁を背に仮眠を取ってみたのだが、安全地帯なら普通になんとかなるものだった。
そして、本日の収入。
手数料を引いたら、3万3333円というゾロ目になってちょっと嬉しかった。
「お兄ちゃん、今日は大丈夫だった?」
ミウと合流したらすぐに腕を組み、彼女をエスコートするように自宅に向けて歩き出す。
「うん。お兄ちゃんがヒールをかけてくれたから楽だったよ?」
「そっか。ならいい」
「お兄ちゃんは? 夜更かしした状態で魔法使って大丈夫だった?」
「ああ問題ない。マナポーションも飲んだからね」
「そっか」
自宅に戻ってからは、リビングのソファーでミウとまったり過ごす。
ついでにミウを膝枕しようとしたのだが、「夜に眠れなくなると大変だから」と断られてしまい、ちょっと残念だった。
「あ、永遠お姉ちゃん……」
「ただいま帰りました。ミウ、兄さん――」
いつの間に帰ってきてたのか、リビングのドアを開けた永遠がいた。
ただ、ちょっと様子がおかしいというか。
なんかむすっとした表情で、ご機嫌斜めだった。
そして、ハグをしようとソファーから立ち上がると、永遠がツインテールをなびかせながら俺に抱き着いてきた。
ちょっと強めに抱きしめ返す。
普段は受け身なのに今日は積極的だ。
「どうしたんだ永遠? 何かあったか?」
「はい――」
――
「それは大変だったねー。永遠お姉ちゃん」
「はい。本当に大変でした」
俺の膝の上に乗った永遠がミウに話を返す。
普段は逆で、永遠がこうして人前でも甘えてくるのは珍しい。
「でも、永遠お姉ちゃんがこんなに甘えん坊になるなんて……」
「私だって甘えたいときぐらいはあります」
永遠の話では、久しぶりに帰宅した自宅がゴミ屋敷のようになってたとか。
部屋の中に無造作に脱ぎ散らかされた衣類に、ゴミがたまったままのゴミ箱、トイレやお風呂場も少し汚れててストレスだったとのこと。
そして、事件はこれだけではなかったというか。
永遠が事前に連絡していたにもかかわらず、父親がそれを忘れて同僚と飲みに行ったらしい。
普段は遅くても20時過ぎには帰ってくるはずの父親が、その日に限って22時過ぎにお酒臭い状態で帰宅し、リビングで待ってた永遠がブチ切れたそう。
そりゃあ怒るわね。
永遠の性格を考えると、静かに怒ってうちに戻ってきたんだと思う。
彼女の父親には悪いけど、やったね。
大好きだよ永遠。
離したくない。
しかも、登校したら、今度は下級生の男に言い寄られ、怒って婚約者である俺がソロで王子将軍を討伐したことを口走ってしまったらしい。
別に隠しているというわけではないから、特に問題ないと思うんだけど、永遠の言い方的に隠した方が良かったのかな?
それでストレスが限界になって今現在という訳だ。
「それと兄さん。実家にある私の荷物なのですが、すべてこっちに移していいですか?」
「ああ、構わないよ? 荷物がいっぱいなら俺も手伝うけどどうする?」
少しずつではあったが、私物をうちに持ち込んでいることには気づいていた。
でも、「すべて」と言うことは本格的にうちに住むということだろう。
「そうですね。あと1回で済みそうなのですがお願いします」
「わかった」
「おにーちゃんどこか嬉しそう」
ちょっと拗ねた様子でミウが声をかけてきた。
「まあ、永遠と一緒に暮らせるのは嬉しいからね? もちろん、ミウとの生活が楽しくないわけじゃないよ? でも、家族みんなで仲良く暮らせることは良いことじゃない?」
「それはそうだけど。永遠お姉ちゃんのお父さんとくるみちゃんたちのお母さんは違うの?」
「ああ。そもそも俺と血がつながってないからね。結婚したら義理という扱いになるけど、俺はちょっと無理かな? あ、ごめんね永遠。永遠のお父さんのこと悪く言って……」
「いえ、構いませんよ兄さん。約束を忘れる方が悪いんです。それに約束を忘れるのは今回が初めてではありませんので」
「そ、そうなんだ……」
俺も気を付けないといけないな。
土曜日は永遠とデートだから、寝坊しないようにしないと。




